契約を自動で履行するスマートコントラクト
スマートコントラクトは、契約を自動実行する仕組みです。よく例えられるのは自動販売機です。自動販売機は「購入したい飲み物の金額分の硬貨を投入する」「ボタンを押す」という2つの行動によって、飲み物を手に入れることができます。そこに人は介在しておらず、契約書にサインもしてはいません。スマートコントラクトにおけるコントラクト(契約)は必ずしも契約書が必要なわけではなく、取引全般を指すのです。
スマートコントラクトをブロックチェーンに実装すると、契約を自動化することができます。「AさんがBさんに指定額の暗号資産を送金して、Bさんが販売している楽曲を聴く権利を得る」といった契約が、AさんとBさんだけで確実に実行されます。AさんとBさんがお互いを見つけることができれば、仲介業者は不要です。スマートコントラクトが普及すれば、中間マージンを省いた取引が増加するでしょう。契約書をスマートコントラクトに移すと、あとから改ざんされないため、紙で保存する必要がなくなり、ペーパーレス化につながるというメリットもあります。
デメリットとしては、合意後に契約を変更することが不可能なことがあげられます。契約内容はブロックチェーンに記録されるため、契約を取り消したい場合は、逆方向の取引を両者合意の上もう一度実行する必要があります。
■スマートコントラクトのイメージ
契約書をブロックチェーン上に記録することで改ざんされる心配がなく、紙で保存する必要がありません。また契約の履行を自動で行われるので契約金の受取損ねる心配が少ないです。しかし一度ブロックチェーンに記録すると契約の変更ができないというデメリットがあります。
□スマートコントラクトの活用事例:あいおいニッセイ同和損害保険での実証実験
あいおいニッセイ同和損害保険は、スマートコントラクトを使用した保険の実証実験を行いました。保険契約の申込、引受審査、再保険取引、事故通知、保険金審査・支払の大部分を自動化し、手続きが発生すると同時にスマートコントラクトに保存された契約に則って、ペーパーレス、かつ人手を介さずに取引が完了するものです。これにより、保険会社での作業負担が軽減されるため、保険料を下げることにも繋がります。
あいおいニッセイ同和損害保険と、保険・金融にブロックチェーン技術を応用する株式会社シーエーシーと、ブロックチェーン技術「Hyperledger Iroha」を開発するソラミツ株式会社の3社が共同で実験を行いました。
引用元:https://www.aioinissaydowa.co.jp/
育成ゲーム内での活用も
ゲーム内で使われる仮想通貨にも、スマートコントラクトが利用されています。例えば、育成ゲーム。仮想通貨を支払うことで、ゲーム内で遊べるペットやモンスターの所有権が販売者から購入者へと自動的に移転します。取引履歴がブロックチェーンに記録され、取引の透明性を確保することもできるのです。
ブロックチェーンを活用したアプリケーションはDApps(Decentralized Applications)と呼ばれています。既に多数のDAppsゲームがリリースされ、多くのユーザーと暗号資産が獲得されています。
引用元:https://dappradar.com/
スマートコントラクトのその他の例として、300社以上の導入実績を持つ「mijin」があります。mijinは金融機関を主とし、食肉データの管理や勤怠管理など幅広い分野で利用されています。
「mijin」は企業が管理するネットワーク上でプライベート型のブロックチェーンを構築できるプラットフォームです。
引用元:https://mijin.io/
その他の活用事例としては、不動産の売買情報や登記情報をブロックチェーンに記録してスマートコントラクトを実現したり、より大局的にオンラインショッピングモールやクラウドストレージなどをスマートコントラクトとして利用したりできます。ブロックチェーンやそれを使って実現できるスマートコントラクトは、多様な分野で活用できる可能性を秘めています。
取材・文/久我吉史
現役の金融ビジネスパーソンでもある金融ライター。
作図/稲岡聡平