対照的なソニーとシャープ
法林氏:あと、分離プランになると、端末の価格が露骨になっちゃう。これをどうするかという課題もあるよね。
房野氏:実際、どうなるでしょう。
石野氏:確実にミドルレンジのスマホの売り上げボリュームは増えてます。シャープでいえば「AQUOS sense」だったり。あれは200万台近く売れてるのかな。
過去の料金体系ではあり得なかった感じだし、ファーウェイの「P20 lite」も、MVNOでも売れていますけど、大手キャリアでもそれなりにボリュームが出ている。そういう影響を先取りして出てきている中で、ドコモが全面的にそれを採用したら、更に傾向が強まるだろうなぁって感じはします。
石川氏:Appleとソニーがどう対応するかっていう話ですね。プレミアムラインで戦っている2社からすると、確実にそこのボリュームは小さくなってくると思う。
石野氏:まぁ、Appleはまだ古いiPhoneがあるからいいですけど。
法林氏:あれをどこまで引っ張れるかですよね。
房野氏:Xperiaは、その対応ができないんですか?
石野氏:そこが問題なんですよねぇ。
法林氏:結構しんどいでしょうね。方針を変えようとしたのは、一昨年くらいからなので、まだ対応できていない。石野君がよく言う「ソニーの技術を結集した」スマートフォンにしちゃってきたので。
石野氏:それ、ユーザーが望んでるわけではないと思うんです。ソニーの技術力を求めてスマートフォンを買っていないじゃないですか。
法林氏:そうなんですよ、考え方が根本的に間違っている。
石野氏:本当に間違っていると思う。「One SONY」っていうのは、社内向けの用語なんで。
石川氏:自己満足だよね。
石野氏:うん。だって技術を買うわけではなく、みんな、写真をきれいに撮りたいからとか、音楽が聴きたいからとか、ディスプレイがきれいだからといった理由でスマホを買いたいわけです。「ソニーの技術を集結させる」っていうワードは、本当に要らないと思うんだよなぁ。
房野氏:Xperiaは海外で廉価版が出ていますよね。
法林氏:ありますよ。あるけど……まぁ、僕らが取材へ行っている各国では、Xperiaを店頭などで見る機会は減ってるような気がする。
石野氏:だいぶ減ってますよ。だって販売台数がすごく減っちゃっているので。特に去年、販売台数が激減した。昔はヨーロッパに行くとよく見たり、アジアも割とシェアが高かったりしたので、見かけたんですけど、この10年でどんどん見なくなってきちゃった。
法林氏:その一方で、鴻海(ホンハイ)パワーでシャープが海外販売に再挑戦するという状況になっている。
房野氏:どの辺で販売するんですか?
法林氏:中国本土もやるし、台湾でも販売している。
石川氏:アジア地域は結構、見かけますよね。
房野氏:欧米はどうなんでしょう?
石野氏:今、欧州でも販売していますよ。日本とはちょっと違うラインのものですけど。若干鴻海臭がする感じのモデル。
石川氏:鴻海が作っている端末に、シャープって名前を付けたような感じ。
法林氏:まぁ、若干、シャープとしての部分を入れてる機種もあるみたいですけど。
石川氏:「エモパー」とかのサービス、アプリを端末にインストールしなくてもいいわけじゃないですか。
房野氏:それらの製品は鴻海のネットワークを使って販売しているのでしょうか。
石野氏:シャープの欧州拠点があって、そこで再挑戦してるようです。鴻海のネットワークというよりも、鴻海になって経営資金に余裕が出てきたというか。
法林氏:鴻海で製造ができる、鴻海でまとめて作れるという強みがあるので、生産コストを下げられるというメリットもあるので。
石野氏:将来に向けて事業展開できるようになったようですね。
房野氏:それはSIMフリーモデルですよね?
石野氏:SIMフリーです。
房野氏:日本でもSIMフリーにもっと力を入れるでしょうか。
石野氏:日本でも今、AQUOS senseでSIMフリー端末を相当数売ってます。これも鴻海パワーがないと、ここまでの低価格にはできなかった。
逆にソニーは、ここ10年でどんどん見かけなくなってしまった。
房野氏:まだ3Gモデルとかを使っていたり……
石野氏:アメリカではもう、ほぼユーザーを見かけなくなりましたね。欧州でも、見る機会は相当減っている。代わりにファーウェイを使っている人を見る。店頭でも見るし。例えば法林さんがよく行かれるドイツのボーダフォンショップに行くと、そのショップの売れ筋ベスト10が並べてあったりして、昔はそこにXperiaが結構な割合で入っていたんですよ。最近はね、その台数が1台とか2台とか。
房野氏:ソニー・エリクソン時代のXperiaですか?
石野氏:「Xperia Z」の前まではソニー・エリクソンだったから……エリクソンの名前が入った時は結構見たし、それ以降も見たんですけど、毎年台数が減っているので、毎年見る機会がどんどん減ってきてるかなぁって感じ。
房野氏:エリクソンと提携を解消したからとか、そんな単純な話じゃないんですね。
石野氏:うん、まぁ……ソニーになってからちょっとねぇ。一時期、鈴木国正社長時代は拡大しようとしたんですけど、それで収益が悪化して、親会社の方針として規模縮小の方向になった。そこからちょっと絞りすぎている感じがするというか。プレミアムに絞ればいいってもんじゃないですからねぇ。
房野氏:ソニーの技術を結集するという話でいえば、ソニー本体は収支が良いから、携帯電話ももうちょっと力を入れてもいいんじゃないかと思うんですが。
法林氏:携帯電話は、元々稼ぐものではないので。もちろん、稼げはするんだけど、稼ぐためには色んな複合的な要素があるので。去年の年末に、Googleの法人向け端末認証か何かにシャープ端末が入ったよね。
石川氏:「Android Enterprise Recommended」(Google によって選ばれたAndroid 搭載端末とサービスを、企業向けに選択、配布、管理するプログラム)ですね。
法林氏:「AQUOS sense」が入って、これはたぶん、Googleとの関係性。彼らがAndroid Oneをやっているとか色んなことが絡んでるとは思うんですけど、そこはできている。で、ソニーも確かに、新しいAndroid OSを搭載する端末に選ばれたりしてるけど、Xperiaって法人で使われるかというと、どちらかというとやっぱりコンシューマ端末。
その点、シャープの端末は、オリジナルのアプリなんだけど、Googleの標準にかなり近いか、あまり極端な差別化をしていない。UIもわりと素直。
VAIOもかつて、法人に使ってもらいたいと思ったけれど、Windowsでちゃんとサポートする前に新しいインターフェースを採用したり、挑戦的なことをたくさんしちゃったので、法人側は喜んで採用できないということがあった。自分たちが好きな製品を作っちゃっている。VAIOもかつてそうだった。今、ソニーはそれを修正しようとしている感はありますけど、どこまでできるか。
携帯電話の世界って、瞬間的にパッと方針を変えられものじゃない。部材の調達から何から含めて。ソニーモバイルは岸田光哉社長になって、これからどうやって変わっていくか。去年変わったばかりなので、まだちょっと時間は掛かるかなって気はしますけど。
石川氏:Xperiaは法人に売るには高すぎなんですよね。ソニーはキャリアから年間2回新製品が欲しいと言われたらそれに応えて、中途半端に進化させた製品を年間2回出しちゃう。結果として、コスト高な製品になる。ソニー社内の動向を見つつ、キャリアの意向にも配慮しつつというビジネスが、ユーザー離れを起こしちゃっているのかなぁって気はしています。
石野氏:キャリアを見るわりには、キャリアの変化に鈍感なんですよね。このビジネスモデルの弊害で、NEC、三菱などのメーカーが撤退してしまった。
石川氏:やっぱりメーカーとしてどうしたいのかという自主性がないと。Appleは言うこと聞かない、自主性しかない会社。ファーウェイもSIMフリー市場で世界的に戦っているので、ちゃんと自主性がある。ソニーはキャリアに頼りすぎたビジネスから抜け出せなくなっちゃっているので、中途半端にキャリアに買ってもらうって状況になっている。
法林氏:SIMフリー端末を……まぁ1、2回出したけど、正面切って出せてないところがソニーのちょっと厳しいところですよね。シャープは出せたので。
房野氏:その違いって何なんですか?
石川氏:シャープは立場的にずっと恵まれていないんですよ。古くは、東京デジタルホン、PHSから始まり、ドコモに納入するメーカーのラインナップの中でも低い立場にいたんです。
石野氏:徐々に地位を上げてきてはいるけど。
石川氏:コンパクトサイズの端末をドコモが調達しようと思った時に、Xperiaの小さいのとAQUOSの小さいのだったら、やっぱりXperiaが採用されるし、メーカーで初の有機ELモデルを採用しようと思ったら「Xperia XZ3」で、シャープはごめんなさいみたいになったりする。やっぱりソニーの方が優先順位が高いので、ソニー製品から採用される。
シャープは売り先がなくて、どこにしようかなってことで、色々と考える。シャープは恵まれてない環境だからこその反骨精神というか、面白い製品で何とかしてやろうっていう意気込みはあると思います。だからこそSIMフリー端末も販売できた。
法林氏:今年は分離プランで、スマホの定価が見える形でユーザーが買っていくことになるので、そうすると自ずとメーカーはSIMフリー端末を販売しやすい環境になります。もちろん、販路とかサポートとか考えなければならないことも多いので、簡単ではないですが、まあSIMフリーを販売できないメーカーは、もしかすると今後、経営が厳しくなるかもしれない。
あともう1つ、メーカーに対して思うことは、ちゃんとやっているところもありますけど、今まで以上に露出を考えなければならないということ。新製品を作りました、キャリアに納入しました、あとはキャリア任せで売ります、みたいな感じでは販売成績を上げることが難しくなる。
もちろん広告宣伝費をメーカーが持つこともあるんでしょうけど、やっぱり自分たちからメディアにアプローチしていかないと、市場での存在感がどんどんなくなっていくと思う。まぁ、端末ができたら、すぐ桐の箱に入れて石野君のところに持っていくことですね(笑)
石野氏:いやいやいやいや(笑)
……続く!
次回は、学割プランについて話合います。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。