童話のような龍蓋伝説と国内最大の土でできたご本尊
続いて、こちらも厄除け霊場であり西国三十三所札所めぐりにも数えられる岡寺[おかでら]にやってきた。道中、なにやら乗っているタクシーが急坂を登り下りし始めたと思ったら到着。駐車場から階段を上がり、仁王門をくぐりさらに階段を上ったところに本堂がある。随分な斜面に建てられた寺である。しかし岡寺の名の由来は地名の「岡」。決して丘の上にあるからということだけではないのだ。もっと言えば元来の寺名は、龍蓋寺(りゅうがいじ)だったが、通称だった「岡寺」が一般的に広まり宗教法人としても名乗るようになったという。
この龍蓋寺の由来は境内の小さな池にある。その昔地域の農地を荒らす悪い龍がいて、その龍を当寺を建立した義淵僧正(ぎえんそうじょう)がこの池に沈めて上から蓋をしたと伝えられている。龍に蓋で「龍蓋寺」とは何かのことわざのようだ。ちなみにこの龍蓋伝説にはさらに小話があって、池に突き出た岩はその龍の蓋とされているのだが、岩に触ると龍のもたらす力によって雨が降ると言われている。そんなことから水不足で農耕に影響があると、この岩に触れて雨乞いをする儀式もあったとか。よく岩の形が龍に例えられることはあるが、「あの岩は蓋です」というのは珍しい。沈められてなお雨を降らせとは、姿の見えない龍に少し同情してしまった。
こちらは本堂。1805年に上棟され30余年掛かって完成した建物。奈良県指定文化財。
龍蓋寺の由来となった龍蓋池は5メートル四方程度のもので本堂に近いところにある。中に突き出た岩が龍を閉じ込めている蓋である。
ご本尊は塑像[そぞう](土でできた仏像)としては日本最大の如意輪観音様。見た目には少しざらつきを感じる白い色をしているのが塑像である由縁。もともとは着色されていたものが長い時間を経ていまの姿になっているが、そのなかで薄紅色の唇と少し鮮やかな眼の白色は近年に修繕されたとのことだが、図らずも素敵な差し色に見えてくるようでオシャレだ。奈良時代より土の仏様が鎮座され続けていると思うと、ふと背筋が伸びる。この日も祈祷を受けに訪れている参拝者の姿があった。なお如来輪観音の両脇に控えているはずの愛染明王(あいぜんみょうおう)、不動明王は、足掛け2年の修理作業を終えて2019年4月1日から一般公開される。6月2日までは、本来の安置場所よりも低い位置で特別公開される予定だ。
祈祷場から拝むご本尊の姿。今ツアー初めてご本尊の公開を許され謹んで写真を撮った。4〜12月は本堂内でのお参りも自由にできる。
特別にさらに近くから拝見。塑像の質感、日本最大の大きさが写真で伝われば良いが……。
岡寺
奈良県高市郡明日香村岡806
近鉄橿原神宮前駅より奈良交通バス「岡寺前」下車徒歩10分 近隣民営駐車場有
入山料 大学生以上400円、高校生300円、中学生200円、小学生以下無料
関東や中京地区のお客様の利用促進をねらって、JR東海の「うましうるわし奈良」のキャッチコピーによる観光キャンペーンが始まったのが2006年。京都などの国際観光都市に比べると意外と最近の話だ。しかし2027年に開業するリニア中央新幹線が、その後大阪延伸を果たした時には奈良市付近にも駅が設けられることが濃厚となっている。そのことを鑑みるとこれからの奈良観光の盛り上がりは間違いなしとも言えるだろう。もしかしたら落ち着いて仏様と対面できるのも今が残されたチャンスかもしれない。
問い合わせ先/
JR東海「うましうるわし奈良」
https://nara.jr-central.co.jp
写真・文/山下大祐 日本大学芸術学部写真学科卒業後、ロケアシスタントで多様な撮影現場を経験しながらカメラマンとして活動。2014年からレイルマンフォトオフィス所属。鉄道会社のカレンダーや車両カタログ、カメラ広告、鉄道誌のグラフ等で独創性の高いビジュアルを発表しているほか、執筆活動も行なう。