■連載/大森弘恵のアウトドアへGO!
アウトドア好きにとって、モチヅキといえば「サーマレストやMSRを輸入している会社」というイメージが強い。しかし、本社があるのはモノ作りの町、新潟県三条市。あちこちに金属加工工場が点在しており、国産をうたうアウトドア用品や家庭用調理器具、カトラリーの多くが、三条市が関わっているという土地柄だ。
モチヅキがハーケン作りをやめない理由
「もともとはクライミング用のハーケン(くさび。ピトン)の製造からはじまった会社で、日本の沢登りやクライミングを支えてきました。欧米では1970年代からはじまった岩を傷めないクリーンクライミングという意識が日本にも浸透し、現在はハーケンの需要は非常に少ないのが実情です」と言うのはモチヅキの代表取締役・望月岳志さん。
国内メーカーは次々に撤退し、今でも販売するのはモチヅキのみ。ハーケン作りをやめようと考えたこともあるそうだが、登山専門店より「数は少なくても必要とする人は0にはならない。モチヅキがやめてしまったらハーケンがなくなってしまう」と伝えられ、その使命感もあり製造を継続しているという。
mini-5というアイゼン。こちらも登山靴の進化とともに、装着できる登山靴が少なくなっている。とはいえ、対応するアイゼンがなくなると登山者に迷惑がかかる。
「登山に限らず、何にでも流行・進化があります。流れを見極めることが大切ですが、切り捨てるだけでもダメ。取捨選択していくことを若い社員に求めています」(望月さん)
そんな中、若手社員が中心となり手がけ、2016年に発売したのが「シェルターステイク」。9mmのスチール棒を素地に、強度をあげるプレス加工を施したもので非常に曲げに強いペグとなっている。
モチヅキの現在の主力、MSRのテントやタープは軽量なものが中心だが、2016年といえば大型シェルター「パビリオン」が再販された年。
もともとモチヅキではアルミ製やスチール製のペグを製造していた。パビリオンのような大型シェルター用ペグを、モチヅキが作らない理由はなかったわけだ。当然、シェルターステイクは単品で販売されるだけでなく、復活パビリオンには付属されていた。
イメージしたのはモチヅキがかつて製造していたアイスハーケン。イボイノシシと言われたもので、表面のデコボコが特徴的だ。
プレス加工の際にはアイスハーケンのように凹凸を作り、地面への抵抗力を増やしている。鍛造ではないが、研究所に依頼した実験では、鍛造ペグよりも曲がりにくい結果となったとも。天候や地面の状況など実際のキャンプ場ではいろいろな条件が重なるわけだが、最強クラスのペグと言っていい。
美しく削った先端。肌を傷つけることがないように丸みを持たせているが、地面には無理なく刺さるよう調整している。
唯一残念だったのが、長さ32cmの1種類だったわけだが、このたび短いサイズが登場。ファミリー用テントに扱いやすい長さとなり、注目度は高まりそうだ。