「工業化」「高機能化」「高齢化」の出口戦略とは
同社では、こうした「工業化」「高機能化」「高齢化」に対応するハウジング商材をより積極的に推進すべく、パートナー企業との協業や販売流通網の整備を進めるとともに、2016年には台湾初となる直営専用ショールームをオープンさせるなど、販売促進活動の強化に取り組んでいる。
今回はそのなかで「パナソニック リビングショウルーム台北」を見学。台湾最大級の住宅・インテリア複合型総合施設「台北設計建材中心」1階にあるここでは、単に商品を並べるのではなく、キッチン、バスルーム、リビングを備えた暮らしのミニ空間を作り、日本流の暮らし方の理解を深めてもらうような構成が特徴的だ。
パナソニックでは、「台北設計建材中心」の1階と6階にショールームを展開。
台湾では前述の通り、内装が完全に出来上がった状態ではなく、基本的な水まわりだけを備えた状態で販売されるケースや、またリフォームでは、一から全て内装業者(室内設計士)にデザインを委ねることも多い。そのため、こうした日本式の暮らしかたそのものがアピールできる常設ショールームや展示会、セミナーなどのイベントは、営業面でも非常に大きな役割を担っているのだそう。
同ショールームでは、デベロッパーや室内設計士、内装施工業者、さらには一般のエンドユーザーまで、月間で400〜500組が来訪。ここでもやはり優れた収納機能を持つシステムキッチンが人気だというが、高齢化社会に向けたユニバーサルデザインのバストイレ、床材なども、いまだバリアフリーの概念が浸透していないこの地において新鮮に受け止められている。
一番人気は昇降式の食器棚などを備えたシステムキッチン。省スペース設計の回転式のシューズクローゼットなどは日本製ならではのアイデアと気配りが光る。
さらに、現地販売代理店との協力体制もポイント。同じく、台北市にある「一澤貿易」ではパナソニックのハウジング商材を網羅したショールームを開設。日本式住宅設備を熟知した現地スタッフが対応し、その違いや日本式住宅の快適性、メリットを説明、よきパイプ役となっているようだ。
「一澤貿易」のショウルームは、パナソニック ホームズ台湾が入るビルの1階に常設。水廻り製品から床材、壁材、エイジフリー商材まで幅広く展示する。
「家や暮らしかたというのは、国ごとの生活様式や文化が大きく反映されます。特に水まわりは、配管などさまざまな課題も併せてクリアしていかねばならず、国ごとの細かい対応が難しかった。けれど時を経て、これら新興国の国々に浮上してきた共通の課題に対し、日本流すまいの設計思想やノウハウが対応できる時代になってきた。まさに新たな市場が出来上がりつつあると思っています」(山田氏)
ハウジング事業部では、こうした住宅設備以外に、内装・外装建材を扱うほか、さらにES社の事業全体に広げると、台湾で8割のシェアを持つ電材事業の配線器具、照明も扱う。さらに、2017年同社傘下に入ったパナソニック ホームズとの連携も大きな武器に。
そのパナソニック ホームズでも、日本で50 年超に渡りビジネスを行ってきたノウハウを生かし、2016年8月、新平市新莊副都心に一般向け宿泊体験型ショールーム「UD夢想家 松下生活體驗館」をオープン。バルコニー含め、全ての部屋を車椅子で通行できるバリアフリー空間には、埋め込み型の手すり、三枚連動引戸といったユニバーサルデザイン設備に加え、天井裏&床下収納などの高機能収納アイテム、スペースが可変できる間仕切り扉、さらには大気汚染対策として空気質管理、快適な照明環境、日本製建材の活用など、日本流の暮らしやすい住まいを実例にて紹介。実際に宿泊して体験してもらうことで、その良さを体感してもらう試みを実施している。
日本式の住まいを提案する宿泊体験型ショールーム「UD夢想家 松下生活體驗館」にはオープン以来、500組以上が来場。
また、パナソニック ホームズでは、2010年以降、台湾で培った内装事業や建築請負事業のノウハウと、オリジナルの建築技術をマレーシア、インドネシアを中心としたアジア地域へ水平展開、それぞれの国や地域に合わせ効率的な生産方法を提案・実施していくことで、家づくりのみならず、街づくり(インドネシア・スマートタウン計画・SAVASA )まで海外事業を加速させていく予定だ。
「パナソニック ホームズが持つ設計、施工管理のノウハウも生かし、物品商材だけでなく、工事込みの提案をトータルで行えるのは総合メーカーならではの大きなアドバンテージ。もちろん国ごとのカスタマイズは必要ですが、台湾でしっかり学習させてもらったことで、海外展開の足固めができた。これから10年、皆さんがびっくりするほどの数字を伸ばしていきたい、と思っています」(山田氏)
同社が描く2030年度海外売上1,000億円、海外売上比率約20%の予想図。その実現のために、今回取材した台湾での取り組みが大きなカギとなっていることは間違いない。
取材・文/原口りう子