2018年、創業100周年を迎えたパナソニック。現在、家電事業を担うアプライアンス(AP)社、主にBtoBにフォーカスした事業を行うコネクティッドソリューションズ(CNS)社、電池、モビリティなどを扱うオートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS)社に加え、ハウジング、電材、住建、ホームズ、エイジフリー事業などを担うエコソリューションズ(ES)社という4カンパニー制を敷く。そして今回フィーチャーするのはES社。
同ES社は2018年12月、「今後、同社売り上げの約24%を占めるハウジング(住宅設備)部門の海外事業を加速させ、2030年度、海外売上げ1,000億円を目指す」と発表。これは、2018年度見込みの約20倍に当たる。今回は、その足がかりと位置づける台湾で行われた取材見学会に参加。現地での施策例とともにその取り組みについてレポートする。
そもそも海外事業拡大の背景にあるのは、需要縮小が進む国内市場に対し、台湾や中国を始めとする海外市場に目を向けると、まだまだ住宅着工の伸びが期待できるということだ。「国内市場の中でも、建設、リフォーム、介護分野ではまだまだ期待が持てる。国内でしっかり売り上げを確保しつつ、海外に投資していくというのが重要」と話すのは、パナソニック執行役員で、エコソリューションズ社ハウジング事業部長を務める山田昌司氏。
「国内市場で手堅く稼ぎつつ、海外に投資したい」と話すパナソニック エコソリューションズ社ハウジング事業部長の山田昌司氏。
海外事業戦略の課題と対策
海外戦略を進める上で、重点地域と位置付けられているのが台湾、そして中国、インド、ASEAN(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム)という4つの国、地域だ。
海外進出の足がかりと位置づけられる台湾。非耐震構造の古い建物が多く、立て替えやリフォームなど、建築需要が著しい。
これらの国、地域においては、今後、旺盛な住宅需要が見込まれるとうのがいちばんの理由だが、一方でこれらの国に共通する建設課題が、「労働力不足」と「賃金高騰」、職人不足による「施工品質のばらつき」だ。
さらに、中国のマンションはスケルトン方式(骨組みだけ作って物件納入し、内装は購入者が業者に別発注して仕上げる方式)が通常だが、前述した労働力不足や品質の問題から、内装の義務化を2026年までに現在5〜20%の内装住宅比率・住宅工業化率を共に30%にまで引き上げるという政府方針もある。
「ここに我々のビジネスチャンスがある。これらの地域、課題に対して、どういうソリューションを提供していくことこそが大切」と山田氏。そしてこれら課題解決のキーワードとなるのが、「工業化」「高齢化」「高機能化」の3要素だ。ここからは、この3つのポイントについて、海外進出の上で重要な役割を果たすという台湾現地での例とともに紹介する。
「湿式工法」から「乾式工法」への転換で、工業化を推進
一番目のポイントは「工業化」。その具体策の一つに、中国を中心とした国々で多く用いられる「湿式工法」から、日本式「乾式工法」への転換がある。「湿式工法」とは、モルタルや漆喰などの塗り壁材を現場で水と混ぜて練り、材料が乾かないうちに構造物を仕上げていく工法。一方、「乾式方法」はあらかじめ工場でユニット化した製品を生産し、それを現場で組み立て、セットする工法だ。
工業化の取り組みとして、台湾や中国で一般的な「湿式工法」から、生産済みのユニットバスなどを現場で組み立てる日本式「乾式工法」への転換を推進。
「台湾や中国では、洗面所、バスルーム、トイレが一体化した空間が一般的で、その施工には、湿式工法が用いられるのが常でした。ただ湿式は施行に時間がかかるばかりか、品質が職人の技術に委ねられる部分が多い。これに対し、乾式工法は工期をその約1/3にまで短縮できるほか、現地では組み立てるだけなので、熟練職人を必要とせず、品質の安定化も図れます」(山田氏)
とはいえ、ユニット化されたコンパクトなバスルーム空間は、長年、湿式のそれに慣れ親しんできた人々にはまだまだ抵抗が多く、受け入れも難しい。そこで、日式=乾式工法のメリットを丁寧に説明し、理解してもらうことで、乾式工法への移行を推進していくと同時に、ユニットバスやシャワールームなど、日本発の工業化商材を積極的に展開していく考えだ。「〝いかに短納期で、高品質な空間を提供するか〟これは、当社の強みが十分に生かせる部分」と山田氏も自信をのぞかせる。