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ハズキルーペ会長が明かす、広告費に100億円かけた〝本当のワケ〟

2019.01.22

『らくらくフォン』を手がけたエンジニアたちが屋台骨に。

――松村会長が経営しているプリヴェ企業再生グループがタカラトミーから買収した専門商社。もともとそこが『ハズキルーペ』の前身となる商品を扱っていたんですよね。

松村氏 アイテム数で4000以上の商品を扱っていた専門商社でしたが、その中でシニア向け一枚レンズの眼鏡型ルーペが23年間、毎年5000万円から6000万円の売り上げがありました。デザインも悪く、お嬢さんからの投書があり、「お父さんが掛けているとお爺さんに見えてしまう、でもお父さんはこれが無いと困るというほど必要なものです。デザインをなんとかできませんか」と切実な声も届いていました。その頃、宝田明さんが、テレビ番組で紹介してくれたところびっくりするくらいに売れました。絶対的なニーズがある商品だなと直感しました。デザインを変え、CMで有名タレントを使って認知を得れば、売れると確信しました。それから8年が経ちました。

――具体的にどうやって再生させたのですか?

松村氏 それまでは、鯖江市のメガネ工場に委託製造していましたが、手作業で製造不良率も高く、コスト高で採算の合わないものでした。自社でレンズを作らないとダメだと思い、富士通から買収していた神田通信工業にレンズの設計、製造、生産をやらせることにしました。完全に内製化するために、素材から完成品に至る工程を全て担う全自動化工場を作り上げました。

――内製化にこだわった意味は?

松村氏 コストダウンと不良品を出さずに大量生産するためです。眼鏡業界で初めて、大量生産技術を確立し、世界最新鋭の全自動化工場を作り上げたと自負しています。これまで、眼鏡業界では、年間5000本売れたら大ヒットと言われていました。弊社は現在、月産60万個の生産能力があります。現在の工場で月産120万個までの生産能力の余地があります。世界を見渡せば、巨大な潜在需要があると見ています。

――とはいえ、国内で内製化すれば人件費が高い分、コストが上がります。

松村氏 人件費を極限に無くすために精密機器、血液分析装置などの医療機器、携帯電話『らくらくホン』も製造していた神田通信工業に光学部門を新設、レンズ、フレームの製造、生産の全自動化のために40億円以上の設備投資を実施してきたのです。

――買収した会社のシナジーを生かしているわけですね?

松村氏 売りに出る会社は、事業再編に伴い中核事業から外れる会社、又は赤字会社、黒字会社であっても売り手企業が将来、市場が縮小すると考えているものが大半です。私は、これまで日産自動車、富士通、東武鉄道、伊藤忠など大企業から会社を買収してきましたが、競合するファンド勢も多く、常に数十社のコンペチター(敵)と争い買収案件を勝ち取ってきました。再生や立て直す以前に大企業から会社を買収する事自体がどれだけたいへんなことか。まして何の後ろ盾も無い、松村謙三の個人会社で大企業から会社を買収する事が前例の無い凄い話なのかを読者の方々には、認識して頂ければと思います。また赤字会社を立て直す事は、簡単ではありません。至難です。救急治療のようなものです。スピードが命です。直ぐに矢継ぎ早な手を打たないと出血多量でアウトです。また出血を止めただけでもダメです。瀕死の会社を再生させる為には、新しいビジネスを自分の頭で考えて、勝負しないとダメです。社員達から独創的なアイデアを期待してもダメです。みんなで考えるなど小学校の発想では、会社は直ぐに潰れてしまいます。時間の無駄です。立て直しを覚悟した者1人が寝食も忘れ、夢にうなされながら、自分の頭で考え抜いた閃きこそが唯一の成功の道です。

――まずモノを再生させたうえで、あらためてCMを展開していったということですね。

松村氏 そうです。8年前にハズキルーペ事業をスタートさせ、当初2年間でも50億円の宣伝広告費を掛けました。石坂浩二さんを使い、テレビCM、電車広告、全国紙に全面カラー広告、チラシ、雑誌などかなり大々的にやりました。しかし全面的な認知を獲得するには、早すぎました。2015年8月から再びBS、地方局中心に多い月で3億5000万円 4500番組にCMを打つと、月に取り扱い店舗が500店舗のペースで増えていきました。メガネ店、家電販売店、調剤薬局などです。

――それが今の5万店舗以上の販売網につながっているわけですね。

松村氏 ただ同時に問題が生まれました。CMを打って売れはじめると、粗悪なコピー商品が多数出てきました。他社の宣伝広告にタダ乗りして、儲けてやろうとする主に中国製品の粗悪品を販売するフリーライダーたちです。

――意匠権や商標権は取っていなかった?

松村氏 当然取っています。世界約90か国に意匠権、商標権の権利を取っています。それだけでは権利が弱いのです。意匠、デザインは少し変えられて印象が変わるとすり抜けられてしまいます。また意匠権の存続期間は、設定登録日から20年です。20年経てば誰でもマネできます。強いのは不正競争防止法です。この法律は適用要件である著名性を獲得すれば、権利の期限はありません。商品の形状を模倣されて不利益を被った場合、懲役刑もある厳しい法律です。因みにパリ条約に加盟している全ての国は、この不正競争防止法を持っています。

――不正競争防止法でコピー品を排除させようということですね。具体的にはどのような手を打ったんですか?

松村氏 不正競争防止法を適用するためには、著名性を獲得しないとダメです。CMを大量に打ったのは著名性を獲得するためでもあります。裁判官がハズキルーペを知らなければ、不正競争防止法で相手を叩くなど、無意味になります。裁判官がハズキルーペを知っていなければ、差し止め訴訟を打っても勝ち目はありません。裁判官が知っているほどの著名性が必要なのです。全国だれもが知っているインパクトのあるCMは、同時に裁判官の認知を得るためのCMでもあったのです。

――なるほど! いわば、裁判に勝つために100億円を投資したわけですか。

松村氏 安価で粗悪なコピー商品に市場を取られたらもう終わりです。大量にCMを打ち著名性を獲得する過程では、売り上げも爆発的に伸びました。取り扱い店舗も現在5万3000店舗、実質的に日本最大のチェーン店の規模にまでなっています。著名性を獲得した結果、不正競争防止法に基づくデットコピー商品の差しどめ訴訟でも勝訴して、140以上のコピー業者を排除しました。

――モノもよく、宣伝で認知度も高まったうえに模倣した商品の芽を潰してきた。だからこそ、ブランド価値を維持して、人気を保ち続けられているわけですね。

松村氏 パッと出して、上手い事やって売れたなんて安易な事は、まずあり得ません。どんなに良い商品でも、赤字の会社を立て直すのでも、最低 5年はかかります。ハズキルーペの場合も軌道に乗せるのに8年の時を要しました。

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