普段、PCやスマホに集中した後、なんとなく頭がぼーっとすることがある。もしくは、ぼーっとしたくなるときもあるかもしれない。そもそも、ぼーっとすると脳にはどんな影響があるのか。近畿大学医学部・講師で、脳の実験的研究に従事している生塩研一さんに素朴な疑問を聞いてみた。
ぼーっとしている間、脳はどんな状態にある?
そもそも、ぼーっとすると脳はどんな状態になっているのか。
「かつては、ぼーっとして何も考えないと、脳は休んでいると考えられていました。しかし、実際には、むしろより活発に活動していることが分かっています。脳全体ではなく、内側前頭皮質、後帯状皮質、楔前部、角回といった脳領域を中心とした複数の脳領域がネットワークを結び、リズムを合わせて活動を高めます。そのネットワークは、デフォルトモードネットワーク(DMN)と呼ばれています。
脳は脳領域によって役割分担をしていますので、何かに意識を向けて脳を使うと、それぞれの情報処理に特化した脳領域の活動が高まります。不思議なのは、どんなことに意識を向けて情報処理をしても、DMNの活動は低下してしまうということです。このDMNは近年、脳科学で世界的に注目を集めています」
意図的にぼーっとすることは脳にいい?悪い?
ぼーっとしているのに脳が活発に動いているとは驚きだ。そもそも、ぼーっとすることは脳にとっていいことなのか、悪いのか。
「ぼーっとすると活動が高まるDMNの機能はまだよく分かっていませんが、自分が行ったことを思い出したりする『内省』や、自分の感じ方や考え方を客観的に考える『メタ認知』でも活動が高まることが知られています。ぼーっとすることで、自分の内なる声を聞けたり、自分の中の無意識が浮かび上がったりすると考えてよいでしょう。科学者や芸術家は、よくぼーっとしているときにひらめくと言われますが、このようなことも関係ありそうです」
生塩さんによると、今後来るAI時代のことを考えても、認知症、うつ病との関係からしてもDMNは注目を集めているそうだ。
「今後、単純な知的作業ほどAI(人工知能)にとって代わられますから、創造性やひらめきを得ることはますます必要になってくるといわれますが、そのような観点からしても、ぼーっとすることはよさそうです。
また、認知症ではDMNのネットワークが分断されているようですし、うつ病ではDMNのオン・オフがうまくいかないということも分かっています。DMNは心の健康やメンテナンスとも関係がありそうですので、時々、ぼーっとして、DMNをしっかり活動させるとよいかもしれません」