■連載/大森弘恵のアウトドアへGO!
キャンプ好きの星のソムリエがプラネタリウム用テントを自作
野外料理ユニット「KIPPIS」を主宰するほか、雑誌やコマーシャルなどでキャンプシーンのコーディネートを行っている猪俣慎吾さんが、完全遮光できるテントを自作し、各地のイベントでプラネタリウム体験会をはじめた。
猪俣さんの本業はカメラマン。とはいっても、決して星空写真家ではない。もともとキャンプを趣味としており、それが高じてアウトドアの撮影やコーディネートをはじめたという。そして、キャンプ場で見た星空の美しさに気づき「星のソムリエ」という資格を取得するなど、好きなことには一直線。
真っ黒のドーム型テント。これがプラネタリウムだ。直径6mの大型テントではあるが、ひとりで設営・撤収できる構造。
きっかけは、2016年に発売された大平技研の「メガスター・クラス」という非常にコンパクトなプラネタリウムが登場したこと。わずかφ19×H24cmという本体で、直径7mまでのドームに北半球の全天の星を投影できるという今までにないサイズ感に、猪俣さんは感激したという。
「決して安くはなく、望遠鏡メーカーの社員さんに“買いました”と報告したところ“個人で買うモノではない”とあきれられたほど。購入するのはイベント会社ばかりで、パーティー会場で使用しているそうです。でも、プラネタリウムはドームじゃないときれいに映し出すことはできません。四角い箱では星が壁までの距離が変わるのでぼやけてしまう。僕ならテントを使ってプラネタリウムを作るのに、と考えたわけです。幸いにも、職業柄、プラネタリウムを動かすポータブル・バッテリーは持っているので屋外、どこでも投影できますし。
最初は工場に見積もりを取ったんですが、見本も何もないテントだから設計・材料を含めて100万円を超えると。どうしたものかと考えているときにひらめいたのが、ロゴスのデカゴンというテントです。デカゴンは高さ約300cm、幅約600cm。ほぼ300cmのドームなので、イチから設計するのではなく、防水・遮光布に変更するだけでプラネタリウム用テントになると、製作をはじめました」(猪俣さん)
意識してテントを見ると大部分が直線縫いなので、工業用ミシンさえ手に入れるとスイスイすすむと思ったそうだ。
「いくら直線でも大きな布を縫うのは大変でした。それなりに形を作れても、完全に遮光させるのは大変。結局、地形などさまざまな条件で隙間が生まれてしまうので、設営後に布を被せるなど微調整は不可欠です」(猪俣さん)
また、遮光性を高めるあまり、ベンチレーター非搭載。草地などでは結露がひどいのでその対策も考え中とのこと。これからも試行錯誤は続くようだ。
中に入ると一面にマットが敷かれており、中央に投影機とスピーカーがセットされている。外は太陽が輝いているが、テント内は真っ暗。マットの上に寝転んで見上げると、100万個におよぶ星が映し出されるのだ。地平線まで遮る物はなく、まるで空に浮かんでいるような気分になる。
人間の目では、砂漠の真ん中などどんなに条件がよくても5000個くらいしか星を認識できないが、メガスター・クラスは人間の目では認識できない星をも見せてくれる。プラネタリウムの投影機は、星となる穴をひとつずつあけており、中心から光を当てているんだとか。メガスター・クラスは100万個。テント作りもそうだが、コンパクトな投影機の開発者にもアタマが下がる。