蒸留方法と酵母も変えた新たな焼酎
そして2018年6月、現代の名工に認定された安田さんが新たな焼酎として手掛けたのが「flaming orange(フラミンゴオレンジ)」だった。ラベルには色鮮やかなフラミンゴが描かれているため、知らない人が見ればワインと思うだろう。
香りも「安田」のように華やかだが、ひと口飲めば、同社らしい、しっかりと筋の通った焼酎であることも伝わってくる。
というのも、ベースとなっているのは定番の「いも麹芋」。その酵母を変えることで芳香成分を高めたうえ、あえて減圧蒸留(通常は常圧蒸留)で仕上げている。
同社は常圧にこだわってきた蔵だが、なぜ減圧にしたのか?
「以前、小正(醸造)さんの蔵のワイン系の酵母+減圧蒸留の芋焼酎を飲ませていただいたとき、そのバナナのような香りに興味を持ちました。減圧でもここまで香りが出るんだってね。そこで県の工業技術センターで香り酵母のデータを調べ、たどりついたのが『鹿児島香り酵母1号』でした」
とは、社長の笹山護さん。
定番酒とスポットものの両立。そして香りに注目
「蔵としての理想は定番が売れることですが、消費者のためにもスポットものも出していくべきでしょうね。幸い、安田は11月、flaming orangeは6月の発売になるので、うまく回しながら、今まで芋焼酎を飲んだことのない層にも広がってくれればと願っています」
笹山さんはそう語り、安田さんは
「我々が代々受け継いできた芋焼酎の造り方は完璧です。鹿児島の芋焼酎は鹿児島の麹と酵母+白麹で造るのが基本。それを変えてはいけないと教えられてきました。しかし今は差別化を図るために変える流れになっているとも感じています」
新しい焼酎を造りつつ、今までの銘柄の存続も考えなければならないと同意する。そのうえで、「今、私が興味を持っているのは、昔ながらの伝統的な芋焼酎造りなんです。生もと造りで焼酎を造ってみたいです」
昔の人たちが「こういう焼酎を造ってみたかったんだ」と納得してもらえるようなものに仕上げたいと、熱っぽく語る。そんな安田さんに杜氏の面白さを尋ねると
「今日やったことが次の日にわかること。微生物を扱っているので、すぐ結果がでるのです」
日々研究を続けている名工だからこその言葉だろう。
取材協力:国分酒造株式会社 http://www.kokubu-imo.com/
文・写真/西内義雄(医療・保健ジャーナリスト)