■Introduction
HEGELとは聞き慣れないブランドだがノルウェーで生まれのオーディオメーカーで、製品の開発プロセスは弁証法的思考にあるべきと考え、ドイツの哲学者ヘーゲルの名を冠したという。創立者のベント・ホルターは何と半導体物理学者である。スカンジナビア最大の研究組織SINTEFを辞めて会社を興したのだ。トランジスタの物性を熟知した彼が目指した音は、レコーディングスタジオで録音された音に何も足さない、何も引かない音だと書いている。オーディオ的に言えば原音再生である。
昔から聞かれる言葉だが、その通りであったためしがない。まあ、絵に描いた餅、机上の空論、オーディオの理想である。同社はプリ、パワー、プリメイン、DAC、CDプレーヤー、ヘッドフォンアンプとスピーカー以外をフルラインナップで揃えている。もし、無色透明な音が出たとしてもスピーカーの音色に支配されるのでは? といった疑問を抱きながら、カッコイイ北欧デザインのプリメンインアンプ『H80S』を試聴した。
■Design
HEGEL『H80S』はDAC内蔵の『H80』からDACを取り除いてアナログ入力専用にした同社の最新モデルである。これによって価格は10万円安くなった。内蔵DACはUSB入力では24bit/96kHzまでしか対応していないので、DACレスで低価格の『H80S』の方が一般的には使いやすいモデルと言える。サイズは幅430×高さ80×奥行き310mm、9.4kgと左右の幅はフルサイズで高さが抑えられたスリムなプロボーション。フロントパネルは優雅な曲線を描いている。表面はガラスビーズによるサンドブラスト、シルバーアノダイズ仕上げとなる。脚は3点支持でインシュレーターは柔らかいゴムのような素材だった。
フロントパネルには2個のダイヤルのみとシンプルなインターフェイス、付属のリモコンが全ての操作に対応する。電源スイッチは意表をついてボディ底面にあるのだ。パワーは75W+75W(8Ω)で最近流行のクラスDではなく、バイポーラ・トランジスタを使ったシングル・プッシュプル出力を採用したベーシックな構成を採用。しかし、ボリュームはなぜか電子式を使っている。価格は19万4400円。
付属のリモコンは残念ながら北欧デザインではなく、一般的なカードリモコン。同社のCDプレーヤーの操作もできるマルチタイプである
入力はRCAピンが2系統、XLRバランス1系統で接続する端子によって初期ボリューム値が設定できる。これは地味ながら親切な機能だ。入力切替時にバランス入力の音量が大きくなった場合はこの機能で音量を揃えられる