キャブレターは乗り手の感性にフィットする
キャブレターは、FIの逆。不安定でセッティングが決まりにくく、低燃費やクリーンな排ガスを実現しづらく、例えば長期間乗らずに放置しているとガソリンが詰まってエンジンがかからなくなるなど、なかなかの手間がかかります。しかし、ことバイクに搭載される分には、大きなメリットがありました。それは、機械的に作動する仕組みゆえのアナログ感が、乗り手の感性にフィットする、という点です。
バイクは非常に繊細な乗り物で、スロットル操作に対してエンジンがどう反応するかが、乗り味を大きく左右します。そしてスロットルレバーを回した時、キャブレターはほどよくボケた反応をしてくれるのです。言葉にするのは難しいのですが、スロットルレバーをひねった時に、エンジンがマイルドに応えてくれます。ほどよいボケ反応を利用することで、よりうまくバイクを操る、なんていうテクニックもありました。気むずかしい反面、セッティングが決まり、うまく走らせた時の気持ちよさには得も言われぬものがあったのです。
一方、フューエルインジェクションはデジタル的。「燃料を噴く! 噴かない!」といった、1か0かのような2進数的印象で、実際のところバイクに採用し始めた頃は、「ドンツキ」というギクシャクした反応が問題になりました。現在は進化と熟成によりフューエルインジェクションの出来映えもよくなりましたが、メーカーの技術者からは「今でもキャブレターのフィーリングをお手本にしながら、フューエルインジェクションを作り込んでいる」なんて話を聞くこともあります。
キャブレターは確かに古い仕組みです。電子制御キャブレターもありましたが、低燃費やクリーンな排ガスが求められる時代に、キャブレターが復権することはまずあり得ないでしょう。でも、キャブレターを搭載したバイクには、フューエルインジェクションでは決して得られない気持ちよい操縦フィーリングがあるのも確か(セッティングが決まっていれば)。機会があれば、ぜひ1度キャブレター車に乗っていただきたいものです(ただし、セッティングが決まっていて調子がいい車両に限る)。
文/高橋 剛