緊急時の各乗務員の対応は?
現在、JR東海では乗務員、パーサー、指令員が使用するスマートフォンに、的確なお客様案内が可能となるグループ通話システムを7月に導入した。それを使った指示、連絡がどのように行なわれるかを、やはりわかりやすいように車内に流して公開した。本番さながらの緊迫した乗務員同士のやりとりが続く。
「運転士さん、車内状況をITV(列車監視モニター=車内防犯カメラ)でも確認して、指令(所)にも報告してください。あと、臨時停車も要請してください。私も今から14号車に向かうので、今後は運転士が指示を出してください」(車掌長)
「運転士です、了解しました。指令報告、鉄道警察隊の呼び出し放送を私が実施します」
「お客様にお知らせします。ただいま14号車で緊急事態が発生しています。落ち着いて、14号車からできるだけ離れてください。車掌や鉄道警察隊が対応していますので、ご協力をお願いします」
通常、車掌が行なう車内放送を運転士が代行しているのだ。緊急事態の時は、役割を交代しながら、乗客の安全を第一に対応している。
「指令報告、のぞみ201号の運転士です。14号車の車内で不審者が凶器を振り回しています。臨時停車を要請します」
「列車指令です。了解しました。停車駅は確定次第連絡します」
一般の乗客はこのようなやり取りを聞くことはないが、安全運行を第一にしている新幹線では、常に乗務員同士、そして指令所がコミュニケーションを取りながら運行を行なっていることがわかる。
「おぅ、おぅおぅ! なんだよコラー、ふざけんじゃやねぇぞー!」(不審者)
乗務員が緊急対応をしている間も、男は暴れまわることをやめない。そこへ防護装備を身に着けた車掌が到着。
「やめてください、落ち着いてください」(車掌)
盾をかざして対応する。
「うるせぇよコラァー、フザケンナヨー!」(不審者)
刺又を持った警備員も到着して、興奮している不審者と対峙する。
「凶器を置いてください。話は聞きますから、おとなしくしてください!」(警備員)
「近づくんじゃねぇよー、このヤロウ!」(不審者)
それでもまだ、凶器を振り回すことやめない。いやそれどころか興奮しさらに暴力的な発言が増えていく。犯罪者の心理として、追い詰められるほど興奮状態が高まって自暴自棄になり、暴力的になるのだ。そこへ鉄道警察隊が到着した。
「代わります、通路を開けてください」(警官)
「お願いします」(警備員)
「なんだよ、おまわり、近づくんじゃねー!!」(不審者)
「武器を捨てろ! 暴れるな!」(警官)
鉄道警察官も盾や警棒で対応。そして、一瞬の隙を突いて犯人の身柄を確保する。
「お客様にお知らせします。ただいま、不審者の身柄は確保されました」(運転士)
車内放送が流れる。そして指令所から運転士へ、三島駅に臨時停車することが伝えられ、乗客にもそれが知らされる……、とここで訓練は終了。
新幹線車内で緊急事態が起きたとき、最も重要なのは乗客の安全確保。そのためには「どの車両で」「どんな人物が」「何を行なっているのか」という状況の把握が必要だ、その情報を乗務員や警備担当者に素早く伝達して共有、そして連携して対応しなければならない。もちろん不審者の制圧、身柄の確保も大切なのだが、状況もわからずに行動を起こすと、保安担当者の身にも危険が降りかかるからだ。
訓練終了後に会見したJR東海の新幹線鉄道事業本部の田中守本部長によると「今回は初めての訓練でしたが、これからできる限り頻度を増やしていきたい」とのこと。
「私たちはお客様の安心、安全を第一に考えて運行しています。また、職員たちは全員、交代で毎月2時間の安全教育を受けています。それに加えて、乗務員と警備員の車内見回りを増やし、鉄道警察官の同乗を多くして、不測の事態を未然に防ぐためのさらなる措置を取っていくつもりです」(田中本部長)
JR東海は、これからも誰もが安心して乗車できる東海道新幹線を目指して、努力と対策を続けていくという。
取材・文/松尾直俊
医療、フィットネス関連を中心に、健康にも関連する食や酒類、旅など様々な分野を取材、雑誌や書籍、Webメディアで執筆している