2018年7月、東京の首相官邸において日本とEUの両首脳が経済連携協定(EPA)に署名した。
日本から見れば、自動車の関税がEPA発行から8年目で完全撤廃されるという経済効果がある。それと同時に、EU産のワインとナチュラルチーズの関税がなくなる。
この記事では、ナチュラルチーズの関税について語りたい。現時点では年間3万1000tの輸入枠に原則29.8%の関税が課せられているナチュラルチーズだが、EPA発行から16年目でそれが撤廃される予定だ。
日本の食卓に与える影響は、決して小さくない。
EPAとヨーロッパチーズ
ピーマンという野菜を知らない日本人はいないだろう。
しかし、ピーマンが日本で普及したのはほんの60年ほど前、昭和30年代の頃だ。
当時の野菜の大半は、政府が価格を統制していた。しかし、まだマイナーな野菜だったピーマンに関してはその規制がなかった。それに目をつけた農家が自由市場に流せる商品作物として大量生産したのが、一般家庭への普及のきっかけになったのだ。
価格が安くなれば、その食品は爆発的に普及する。それはEU産チーズにも言えることではないか。
我々日本人にとって最もポピュラーなチーズは、包装時からすでにカットされたものである。しかし本場ヨーロッパのチーズは、文字通り「丸のチーズ」だ。それを買ってきて、自宅のキッチンで小さく切り分ける。そしてチーズを小皿に乗せたあとも、一口大に切るためのナイフが必要になってくる。
柔らかいチーズならば、フォークで代用もできるだろう。しかしエダムチーズのような堅いものだったら、さすがにフォークでは歯が立たない。
そこで筆者は、こんなものを見つけた。クラウドファンディングMakuakeでキャンペーンを展開しているチタンナイフ『彩』だ。
チタンは刃物に向かない?
ナイフの素材としてチタンを使うというのは、あまり一般的ではない。
チタンはほかのポピュラーな素材に比べると柔らかくて、切れるエッジにはならない。包丁の素材として最も利用されているのがステンレスだ。アウトドア上級者向けのボウイナイフやサバイバルナイフならば、カーボンスチールという選択肢もある。カーボンの場合はすぐに錆が浮いてしまうが、研磨がしやすく自分の裁量でエッジを際立てせることができるからだ。
ところがそれは発想の問題で、用途を菓子やチーズのカットに限定すればチタンの持ち味を活かせるのでは、という製作者の意図らしい。
製品を見てみよう。まず気になったのが、グリップに施された螺鈿。砕いた貝殻を漆で接着して模様を作る伝統技法であるが、これがナイフに品格を与えている。筆者が今まで見たナイフの中で、「ブレードは一級品だがグリップは手抜き」というものはひとつもない。グリップを一目見ればブレードの質がだいたい把握できるのだ。
これは間違いなく、ブレードも期待できる。
このナイフのエッジ、すなわち刃は肉を切るほどではない。だから指を滑らせても怪我することはないのだが、それは決して「研いでいない」という意味ではない。必要以上にエッジが立たないようにブレードを研いでいるのだ。
結果、ブレード自体は薄く仕上がっている。