「音楽教育を守る会」の主張とJASRACの反論
音楽教育を守る会は3点主張している。そのうち、もっとも重要なのが、著作権者の許諾なしに公に演奏できないとする演奏権(著作権法第22条)についての主張。音楽教育を守る会は「音楽著作物の価値は人に感動を与えるところにあるが、音楽教室での教師の演奏、生徒の演奏いずれも音楽を通じて聞き手に官能的な感動を与えることを目的とする演奏ではなく、『聞かせることを目的』とはしていない。」と主張する。
対して、JASRACは「著作権法は、演奏権が及ぶケースを「公衆に聞かせる目的の演奏」と定めるが、「カラオケボックスでの一人カラオケも『聞かせる目的の演奏』と認定されている。音楽教室の生徒の演奏も、自分や先生に聞かせるもので、演奏権は働く。」と反論する。
カラオケボックスでの一人カラオケも「聞かせる目的の演奏」であるとした判例は、JASRACがカラオケ装置で管理著作物を無断で使用しているカラオケボックス経営者を訴えた事件。東京地裁は、店舗に来店する顧客は不特定多数なので、一人カラオケのカラオケ装置による音楽の再生や映像の上映は、公衆に直接聞かせ、見せることを目的とするという判決を下した。
音楽教育を守る会は「音楽教室での演奏は『公衆』に対する演奏ではない」とも主張しているが、JASRACは「受講生が一人であっても過去に『公衆』とみなされた判決があるので、たとえ少人数であっても『公衆』である。」と反論する。
最後に音楽教育を守る会は「音楽教室から著作権料を徴収することは音楽文化の発展をさまたげる」と主張しているが、JASRACは「著作権者にお金(使用料)を回すことこそ音楽文化を発展させる。」と反論する。このように両者の主張は真っ向から対立している。
文/城所岩生(きどころ・いわお)
国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)客員教授、米国弁護士(ニューヨーク州、首都ワシントン)。東京大学法学部卒業、ニューヨーク大学修士号取得(経営学・法学)。NTTアメリカ上席副社長、成蹊大学法学部教授を経て、2009年より現職。2016年までは成蹊大学法科大学院非常勤講師も兼務。知的財産法に精通した国際IT弁護士として活躍。近著に「JASRACと著作権、これでいいのか 強硬路線に100万人が異議」 (ポエムピース)など