昨年2月、JASRACは音楽教室から使用料を徴収する方針を発表。音楽教室側は「音楽教育を守る会」を結成し、6月にはJASRACに請求権がないとする訴えを起こした。JASRACが使用料徴収に踏み切った背景はどこにあるのか、裁判での争点は何かについて解説する。
ついに音楽教室まで魔の手が伸びたJASRACの使用料徴収
音楽著作権管理団体のJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)は、2017年2月に音楽教室からも使用料を徴収する方針を発表した。ヤマハなどの音楽教室事業者はこの方針に反対するため、ただちに「音楽教育を守る会」を結成、2017年3月から約3カ月で57万人の反対署名を集め文化庁に提出した。ツイッター上でも約60万ものJASRACに対する批判的ツイートが寄せられた(音楽教育を守る会)。作曲家の坂本龍一さんや大政直人さんなど使用料を受け取る立場の著作権者もJASRACの方針に反発している。
日本のオーディオレコード・CDの生産額は2008年の2913億円から2017年の1707億円へと過去10年間で40パーセント近く減少しているが、JASRACの使用料徴収額はこの10年間ほぼ横ばいで推移し、2008年度の1129億円から2017年度の1096億円へと3パーセントの微減にとどまっている。
JASRACはフィットネスクラブ(2011年)、カルチャーセンター(2012年)、社交ダンス以外のダンス教授所(2015年)、カラオケ教室・ボーカルレッスンを含む歌謡教室(2016年)と順に使用料徴収を始めた。徴収額を何とか維持できているのは、新たな徴収先を開拓してきた努力が実ったからともいえる。しかし、これまで開拓してきた各種教室は主に大人向けの教室。これに対して、音楽教室は将来の音楽文化を担う子どもたちが対象。それだけに今回、JASRACはかなり微妙な領域に踏み込んだといえる。だからこそ、大きな反響をよんだのだろう。
2017年6月、音楽教育を守る会のメンバーである音楽教室事業者251社・団体は、JASRACに対して、音楽教室における演奏については、著作権使用料を請求しないことの確認を求める訴訟を起こした。この訴訟の行方を占う前提知識として、諸外国に比べても厳しい日本の著作権法とそれを厳格に解釈する裁判所のスタンスについて紹介する。
諸外国に比べても厳しい日本の著作権法
著作権法は著作物の保護と利用のバランスを図ることを目的としている。著作物の利用には著作権者の許可を要求して保護する一方、許可がなくても利用できる権利制限規定を設けて利用者に配慮している。日本の著作権法はこの権利制限規定を私的使用、引用など一つひとつ具体的な事例を挙げて個別に規定している。
対して、アメリカではどの事例にも使える権利制限の一般規定あるいは包括規定としてフェアユース規定を採用している。フェアユース規定とは、利用目的が公正(フェア)であれば、著作者の許可がなくても著作物を利用できる規定のこと。フェアな利用であるかどうかは、「利用目的」「利用される著作物の市場に与える影響(市場を奪わないか)」などの4要素を総合的に見た上で判断する。日本にはこのようなフェアユース規定がないため、どうしても著作権法は厳しくなってしまう。
詳細は拙著「JASRACと著作権 これでいいのか〜強硬路線に100万人が異議」に譲るが、裁判所も著作権法を厳格に解釈する傾向がある。このため、JASRACはこれまで著作権関連訴訟では負け知らず。今回の訴訟でも浅石道夫理事長は、「法的な検討は尽くしており、百%の自信がある」(朝日新聞、2017年7月21日)と豪語する。