日本の試し書きには他国にはない特徴が!
Q:日本の試し書きには、どんな特徴や傾向があるのでしょうか?
寺井さん:「ほかの人の書いた線の上には、できるだけ書かない」というのがあります。ここに、日本人の潔癖症や人と一定の距離を取りたがる感じが現れていて、興味深いです。
「筆ペンコーナーの試し書き」のクオリティが高いのも特徴の一つと言えます。
こちらの試し書きは、筆でさらさらと江戸時代の町人らしき人物が描かれています。描いた人はおそらく漫画家さんのアシスタントの方でしょう。筆ペンには、人をクリエイティブにさせる力があるのかもしれません。
また、その年の流行語が描かれる傾向があります。昨年は「35億」「空前絶後の」「忖度」などが多く、一昨年はPPAP、アモーレ、SMAP解散などよく見かけました。五輪エンブレム問題の時には、自身が考案したエンブレムを試し書きに描くツワモノもいました。
今年の上半期は「そだねー」「半端ないって」「山口メンバー」などが多かったです。また試し書き界では次の元号の予想が始まっていたりします。国会議事堂の界隈の文具店には次の元号をうっかり書いてしまっている方もいるかもしれないですね。
日本の試し書きのトレンドはどこへ?
Q:日本の近い将来の試し書きは、どんなトレンドになると思われますか?
寺井さん:最近、“リア充”ぶった試し書きをよく見るようになりました。「遠恋中の彼からプレゼント届いた」とか「今日は代官山にて雑貨めぐり♪」とかSNSの投稿と同じような感覚で、「いいね!」を押してくれと言わんばかりの試し書きも見かけたりします。
また、「シロップのかかったホットケーキ」のイラストとか“インスタ映え”の波を試し書きに感じるような作品もあったりします。
試し書きは「無意識のアート」だと感じていまして、誰に見せるために書くわけでもないのでその人の「素」が現れるのですが、誰かを意識したような試し書きが今後増えてくるような気がしています。それはそれで興味深いですが。
Q:この記事を読まれて、「自分も試し書きを集めたい」、「試し書きコーナーの写真を撮ってSNSにアップしたい」と考えた読者の方に、何か一言お願いします。
寺井さん:この10年余りで試し書きの好みがだいぶ変わりまして、最初のうちは面白いイラストが描かれていたり、試し書き上で思いがけず心温まるやり取りがされていたりすると、テンションが上がったのです。
ですが、最近では、「このインクの滲み具合が素敵だなあ」とか段々とマニアックになってきまして、余程、心が動かないとすぐに持って帰らなくなりました。
「試し書きの生態系」を荒らさずに写真だけ撮らせてもらって鑑賞するのです。こうしたやり方をお勧めします。
試し書きを持ち帰る際には、もちろんお店の方に許可をいただいてください。
外国人旅行客が多い街や、サラリーマン街、学生街、巣鴨のような地域など、客層によって試し書きも大きく変わってきますので、極力、いろんな文具店に行って試し書きを見比べていただきたいです。試し書きを見れば、思いもよらない世界が浮かび上がってきますよ。
寺井広樹さん プロフィール
試し書きコレクター。世界108か国、約4万枚の試し書きを収集。3人組ガールズバンドthe peggies と『I 御中〜文房具屋さんにあった試し書きだけで歌をつくってみました。〜』を制作し、配信日の 11 月 22 日を「試し書きの日」に制定。『「試し書き」から見えた世界』(ごま書房新社)ほか著書多数。
世界タメシガキ博覧会:http://tameshigaki.org/
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)