世界の「試し書き」を収集し続けたら4万枚以上
文具店のペン売り場にある横長の白い紙。これはペンの書き味を試す、「試し書き」用の紙だ。そこには、たいていは何の特徴もない幾何学模様が適当に書かれているだけだが、たまに文字でメッセージらしきものがあったり、ヘタウマな絵が描かれていたりする。
これを巧まざるアートとみなして収集しているのが、千葉県在住の寺井広樹さん。寺井さんは、10年ほど前に会社を辞めて自分探しの旅に出かけた。その途次、ベルギーの田舎町の文具店に立ち寄ったおりに、「ハートマークに花まる、シルクハットを被った愛嬌あるキャラクター、カラフルな色彩、ポップな文字」が散りばめられた、試し書きらしからぬ試し書きに「現代アート」を感じ、すっかり虜になったという。
以来、100か国以上から、4万枚を超える試し書きを収集・所蔵し、日本各地で試し書き博覧会を催すなど、精力的に試し書きの奥深い世界を伝道している。
今回は、試し書きアートの魅力について寺井さんに何点かおうかがいした。
インドやイタリアの試し書きは印象的
Q:試し書きの中身は万国共通で、たいがいは曲線や丸だと思っていました。でも、国や文化圏によって結構差異があり、国民性が垣間見えるそうですね。特に印象深いのは、どこの国の試し書きでしょうか?
寺井さん:ゼロを発明した数学の国、インドですね。インドは試し書きにも計算式がいっぱい書かれるのが特徴です。
たくさんの計算式に混じって、黒い豆粒のようなものが書かれているのが分かりますが、これはおそらく、数学の試験のマークシートのチェック欄を塗りつぶす練習だと思います。
また、イタリアの試し書きはデザイン性が高い、お洒落な試し書きが特徴です。
こちらの試し書きにはサイズなど細かく書き込まれていますが、ペンのデザイナーさんが書いたものと推察されます。
どこのメーカーのペンか気になり、世界中の文房具店に問い合わせたのですが、いまだにわかっていません。おそらくまだ発売前のものかもしれませんね。
「世界タメシガキ博覧会」と題して表参道のギャラリーで試し書きの展示会を開催した際に、この試し書きを額に入れて飾っていたところ、なんと「20万円で譲って欲しい」とおっしゃる男性が現れました。きちんと額装して、会場にディスプレイしていたせいもあるでしょうが「試し書きの価値をそこまで認める人が現れたのか!」と、感慨を抱きました。
「20万円」に、正直いって気持ちが揺れましたたが、結局のところお断りしました。
一方で、ケニアでは「本気度」の高い試し書きに沢山遭遇しました。アフリカ諸国では不良品のペンも多く、インクがちゃんと出るとは限りません。ですから、「インクが出るか」「書けるかどうか」を確かめるため、筆圧の強い、本気度の高い試し書きが多いのです。筆圧が高すぎて破れてしまっているものも多々ありました。