忙しい現代では十分な睡眠時間を確保するのはなかなか難しい。そこで推奨したいのが、スタンフォード大学 睡眠生体リズム研究所 所長・西野精治氏の提唱する、最高の睡眠のカギを握る「黄金の90分」での良質な眠りだ!
90分の黄金法則で最高の睡眠を
睡眠の質を高める話の前に、睡眠には「スリープサイクル」があることを理解してほしいと西野氏。
「最初に深い睡眠、これはノンレム睡眠と呼ばれるもので、約90分続きます。その後に浅い眠りのレム睡眠、これは眼球がぐるぐる動いたりするんですが、ノンレムとレムで1周期になります。それが4〜5回繰り返して、明け方になると睡眠が浅くなり、レム睡眠の時間が長くなります。体がだんだん活動を始めて、起きてすぐに動けるよう準備をするんですね」
本来はこのパターンで6時間以上眠ることが最適なのだが、その時間が取れない人は、最初の90分のノンレム睡眠の質を高める「90分の黄金法則」を意識しよう。
「睡眠のどこの部分が大事かというと……まぁ、本当はどこも大事なんですが(笑)、いろんなことを総合すると、最初の深い睡眠なんですね。この時間には個人差があって、だいたい90~120分くらいの幅があります。この黄金の90分の睡眠が深ければ深いほど、眠りたいという欲求である『睡眠圧』が放出され、自律神経とホルモンのバランスが整えられます」
最初のノンレム睡眠の質を高めることで時間の不足を補うわけだが、逆にこの90分の質が悪いと、何時間寝たところで、疲れもとれなければ睡眠圧も放出できないということになってしまう。
「頭痛やストレス、疲労感、肩こりなど、何となく調子が悪いことは自律神経の乱れがある場合が多いんです。また最初のノンレム睡眠では特に成長ホルモンが分泌され、皮膚や骨、筋肉など体に必要な要素が作られます。いわゆる新陳代謝ですね。成長ホルモンというと成長期の子供や若者しか出ないと思われがちですが、大人も、そして老人も出ているんです」
また睡眠の質を高めると脳のコンディションが良くなる。
「まだ脳と眠りの関係ははっきりしないことが多いのですが、うつ病や統合失調症の患者は最初のノンレム睡眠が不十分なまま、すぐにレム睡眠が出現することがわかっています。こうしたことからも、最初のノンレム睡眠が整うことは非常に重要なのではないかと考えられています。また最初の90分が整うことで、その後のレム睡眠も整い、全体のスリープサイクルも整っていくんです。それから『睡眠時間は90分単位がいい』とよく言われています。90分の倍数、6時間とか7時間半ということですね。しかしこれは今ご説明したスリープサイクルが根拠になったもので、この周期も90〜120分と個人差があるもの。なので、そこまで〝90分〟にとらわれる必要はありませんよ」
■スリープサイクル中に脳と体に起きていること
就寝中は深いノンレム睡眠と浅いレム睡眠を繰り返す。明け方になるに従ってレム睡眠の時間が長く、眠りが浅くなって起床に至る。