医師がすすめるカラダにイイこと~教えてDr倉田~
日本各地で海開きがあり、海水浴が楽しい季節がやってきましたね。一方で例年海や川での水の事故も後を絶ちません。「溺水」を医学や歴史、社会的側面から「社会医学」としてご説明しましょう。
世界で起きる溺水事故はどれくらい?
「水があるところ、常に溺水事故の危険性がある」とイメージできても、世界中で溺れる人数は知らない人も多いのではないでしょうか?
2014年、世界保健機関(WHO)の報告では、1年間に372,000人(2012年度)、「毎日1時間当たり40人以上」が、溺水事故の犠牲になりました。
事故犠牲者の90%以上が発展途上国で発生していること、水辺で就労している子ども達の事故が多いという特徴があります。
溺水者救助の歴史は、救急蘇生の歴史?
「溺れると必ず死亡するわけではない」ことは、医学が発展した現代を生きる私たちは知っています。ところが、「溺れた人を助ける発想や思想の歴史」自体が非常に浅く、1742年英国でWinslowが書いた書籍が現存する最古の文献など、18世紀ヨーロッパで始まりました。
当時の医師は脈を診て、止まったことで、人間の死を確認していました。溺れて心肺停止状態になった人は、脈も触れないので、「死者」と扱われ、埋葬(土葬)されていました。
死者に対して蘇生(医療)を行うことは、(現代とは逆に)人道に反する行為と考えられえていたようです。
「死者とされた人が蘇生し、息を吹き返し、急に生き返る」こともあり、周囲を驚かせていたようです。そのまま生き埋めにされてしまった人たちもかなりいたのでは?と考えると怖いですね。
こうした事態を不思議に考えた人々も多く、溺水(及び落雷など)に対しての救急蘇生が模索されることになります。
1767年、世界で初めてオランダで溺水者救助協会が設立、1773年からベニス、ミラノ、ウィーン、パリ、ロンドンでも同様の協会が次々に設立されていきました。
オランダでは、1767~1793年に990人の溺水者の蘇生に成功、英国でも1774~1814年に7,773例の溺水者に蘇生が行われ、3,851人の蘇生に成功したとの報告が発表されています。溺水者救助をきっかけに、救急蘇生は徐々に人道的行為と認識されるようになりました。
ただし、当時の溺水者への医療は、「逆さ吊りにする、樽の上に仰向けにする」など現代ではとても考えられない様な、荒療治だったようです。
現代医学での「溺水」とは?
口の中に水が浸入すると、刺激からの防御反応として、水が入らないように「息こらえ」が起こります。ところが「息こらえ」も1分程度しか持続できず、気道内に水が浸入し、咳反射が起こり、嘔吐や誤嚥をし、無呼吸から、さらに水が浸入し、肺に損傷をきたします。
溺水状態では、大きな恐怖心に襲われるため、「徐脈(脈が減る)」が起き、脳への血流が減少し、「低酸素状態」になり、意識レベルの低下やけいれんが起こり、呼吸停止、心停止から死に至ります。
「肺の損傷と低酸素状態」が命に危険をもたらすことは分かっても、「溺水」の仕組みは、海や川、プールや浴槽など環境、年齢や持病、水温など様々な要因が絡み合っているため、まだまだ不明な点も数多く残されているのです。