■「NABIT」でつくり方などの情報を14万人と共有
しかしマクドナルドのようなチェーン店の場合、どこで注文しても同じ見た目、味であることが不可欠。発売前に、全店舗がつくり方を正しく理解しておく必要がある。しかも、一気に3商品も増えるため、漏れなく効率良くトレーニングしなければならなかった。
そのために活用したのが、「NABIT」と呼ばれる独自の仕組みだ。「NABIT」とは重要な施策を店舗で着実に実行してもらうために実施する、時間と手間をかけて行なうセッションのこと。年に数回しか実施されないもので、重要度の高い施策が対象になる。
『グラン』シリーズ発売に伴う「NABIT」は2017年1月に実施された。一度実施すると本社スタッフ、エリアマネージャー、店長、クルー(店舗で働くアルバイトスタッフ)の順に情報が拡散し、最終的には約14万人で情報を共有する。『グラン』シリーズの発売に当たっては、つくり方、きれいにつくるTIPS、お客様が期待していること、オーダーを受ける際のコミュニケーションのノウハウなどを伝えた。
「NABIT」のほかには、各店舗にマグネット式のシミュレーションツールを配布。10円玉ほどのコマ(マグネット)をバンズ、パティ、レタス、チーズ、ケチャップなどに見立て、これらを重ねることでつくり方の手順を学べるようにした。
■プロモーションを繰り返さないと忘れられてしまう
『グラン』シリーズ発売に当たり同社は、テレビCMやSNS上でのコミュニケーション、PRイベントを実施し、大々的に告知を行なった。8年ぶりのレギュラーメニューということもあり自然と力が入ったが、発売からしばらくした後も、思い出してもらえるよう、定期的にプロモーションを実施しているという。「お客様の意識が薄れ売れ行きが落ち着いたときにプロモーションすることを繰り返しています。そうしないと段々忘れられてしまうからです。『グラン』シリーズは、レギュラーメニューというよりも期間限定メニューだと思われてしまったところがあるので、レギュラーメニューだということを印象づけると同時に、ビーフ100%パティとふわふわ・もちもちバンズ、といった特徴を強調しています」と若菜氏は話す。
★★★取材からわかった『グラン』シリーズのヒット要因3★★★
1.味と見た目のつくり込み
バンズ、パティ、ベーコン、トマト、レタス、チーズ、といった具材類をそれぞれ吟味し最適な組み合わせを探った。加えて、美味しそうに見えることも重視した。
2.何度でも食べたくなる味
目指したのは奇をてらったユニークなものではなく王道の味。王道の味を追求することにより、何度でも食べたくなるほどの完成度に高めた。
3.どこで注文しても同じ品質
チェーン店はどこで注文しても、味、見た目が同じなのが普通だが、店舗数が多くなればなるほど、この当たり前のことが難しくなる。この課題に対し、「NABIT」を中心に全社的につくり方を徹底したことで、品質を維持している。
現在のところ、『グラン』シリーズの売れ行きは想定通りとのこと。だが、レギュラーメニューとして今後も残り続けるには、常に想定通り、もしくは想定以上に売れ続けなければならない。多くの人に美味しい思い出をつくってもらうためにも、今後はテコ入れも必要になってくるだろう。
文/大沢裕司
ものづくりに関することを中心に、割と幅広く色々なことを取材するライター。主な取材テーマは商品開発、技術開発、生産、工場、など。当連載のネタ探しに日々奔走中。近著に「バカ売れ法則大全」(共著、SBクリエイティブ)。
■連載/ヒット商品開発秘話