■『ブラック・ライトニング』
DC初の黒人ヒーロー、ブラック・ライトニングことジェファーソン・ピアースが悪に立ち向かう、ちょっと大人向けのヒーロードラマ。原作では、1977年の”Black Lightning #1”で初登場した。Netflixオリジナル作品なので、Netflixでのみ視聴可能。
もともと五輪金メダリストの陸上選手だったジェファーソンは、引退後はスラム地区にあるガーフィールド高校の校長に就任。ギャング集団“100”が幅を利かせる治安の悪い街で、彼は正義の味方“ブラック・ライトニング”として市民の平和を守るために懸命に戦った。しかし、ジェファーソン自身の生活は荒廃した。2人の娘を持つ父親だったが、常に命の危険にさらされる夫に耐えられなくなった妻リンからは離婚されてしまう。疲れ果てた彼は9年間もヒーロー業を休んでいたのだが、ある事件をきっかけに復活を決意する。
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従来のヒーロー作品は、“善vs.悪”という単純な図式の勧善懲悪モノが多かった。しかし、現実は「悪党をやっつけて、めでたしめでたし」とはいかない。ジャーナリストだったジェファーソンの父の残した言葉「Justice, like lightning, should ever appear to some men hope, to other men fear.(正義とは、たとえば稲妻のように、ある人々にとっては希望に、ある人々には恐怖に見えることがある)」の通り、本作では正義を貫くことの難しさも題材としている。父親もジェファーソン自身も、正義を貫いたがゆえに他の誰かを傷つけ、自分自身も不幸になった。正義が新たな悪を増殖させているのではないか、という深い問いが視聴者にも投げかけられる。
ブラック・ライトニングは他のスーパーヒーローよりも年齢が少し上(アラフィフ)で、年頃の娘が2人いる。そのため、独身貴族で身軽なキャラと違って、家庭にまつわる現実的な悩みも尽きない。人種差別や貧困と犯罪など、複雑な社会問題も大きなテーマだ。
アメコミヒーローの中で一番苦悩が深いキャラクターかもしれないが、それがブラック・ライトニングの魅力だ。家庭は崩壊したが、元妻や娘からは本当は愛されているし、生徒や保護者からも慕われている。亡き父の友人ピーター・ガンビなど、最高の助っ人にも恵まれている。簡単に白黒つけられたら、きっと楽なのだろう。グレーな状態を抱えたままで歩いていくのは辛いし疲れるのだが、そういう人の方が信頼されるものだ。
光が強いほど闇もまた深くなる。長所と短所のコントラストが激しいからこそ、唯一無二のスーパーヒーローとして多くの人から愛されるのではないだろうか。だから、欠点を無理に克服しようとするよりも長所を伸ばす方にエネルギーを注げば、ここで紹介したアメコミヒーローに近づけるのかもしれない。
文/吉野潤子