■Impression
手嶌葵「明日への手紙(ドラマバージョン)」(96kHz/24bit)を聴く。イントロから音が洪水のように流れ出る。音数が多い。明るく鮮明で輝くような音だ。それでいてあくまでもボーカルはなめらか。解像度重視の音は写真にたとえるとHDRのように白も飛ばず、黒もつぶれないかわりに全体としてはコントラスがなく平面的になりがちだ。つまりどの音も主張しすぎて主役がハッキリしない。『AB-1266 Phi』はボーカルや楽器に厚みがあってしっかりとした存在感を主張する。それが音像定位の良さにつながっているのだ。
スピーカーのような音場というか、左右に広い空間が感じられる。これはアルミ合金でガッチリ固定されたほぼ側圧ゼロの装着状態にも影響されていると思う。物理的に耳に圧迫感がなく、非常に音の抜けがいい。特に平面駆動型の弱点である低域も解像度が高くスピード感があって厚みも出る。この音の厚みがマッスルカーの由縁だろうか。さらに大音量にも強いのが本機の特徴だ。拙宅の静電型ヘッドホン、SONOMA『Model One』は超高解像度だが中音量ぐらいまでしか出せない。
そして『AB-1266 Phi』を聴いた印象は、ヘッドホンアンプによってもかなり違うことが経験上分かっている。今回の『Formula S』の音は音楽性重視、本機の解像度を100%引き出してモニターライクな音にするのではなく、音楽の聴かせ処を踏まえて再生してくれる。つまりヘッドホンアンプの音に個性がある。まあ、どんなアンプにも個性はあるのだが、『Formula S』の支配力は濃厚で、パワフルで、ヘッドホンを鳴らし切るドライブ能力を持っている。
この2つのモデルはペア100万円以上になってしまうが、現在の平面駆動型の最高峰の音を聴かせてくれることは間違いない。その音はヌルすぎずキツ過ぎずワイドレンジで解像度が高く、広々とした空間が感じられ、高域から低域までスピード感が揃っている。
XIAUDIO『Formula S』は豊富なバランス入力端子に対応する。
入力はアンバランスのみで、ゲインの切替がある。左下の専用コネクターは、将来登場予定の別体型の強力な電源部を接続するためのものだ。
試聴に使った電源ケーブルはJPS Labsの製品で20万円以上するハイエンドモデルだ。
写真・文/ゴン川野
オーディオ生活40年、SONY『スカイセンサー5500』で音に目覚め、長岡式スピーカーの自作に励む。高校時代に150Lのバスレフスピーカーを自作。その後、「FMレコパル」と「サウンドレコパル」で執筆後、本誌ライターに。バブル期の収入は全てオーディオに注ぎ込んだ。PC Audio Labもよろしく!