【現在に息づく「幸之助イズム」全社員が毎朝唱和する遵奉すべきパナソニックの精神】
1918年(大正7年)、妻のむめの、むめのの弟・歳男とともにわずか3人で設立した「松下電気器具製作所」。「パナソニック」に社名を変え創業100年を迎えた現在、グループ合わせて27万人を擁する巨大企業へと成長した。パナソニックは車載用電池やIoTなどの新しい分野にチャレンジを続けているが、その根幹には常に創業者・松下幸之助の哲学が受け継がれている。その神髄に迫った ――。
◎朝に唱和される創業者の経営理念
パナソニックの各事業所で開かれる「朝会」では、社歌の斉唱に続いて、以下の「綱領」「信条」そして「遵奉すべき精神」(別掲)が唱和される。
●綱領〈産業人たるの本分に徹し 社会生活の改善と向上を図り 世界文化の進展に寄与せんことを期す〉
●信条〈向上発展は各員の和親協力を得るに非ざれば得難し 各員至誠を旨とし 一致団結社務に服すること〉
ともすると、前近代的に映るかもしれないが、それこそ創業100年を迎えた今でも「幸之助イズム」が全社に脈々と息づく何よりの証左といえるだろう。
「経営の神様」と呼ばれる幸之助は、企業経営を実践していく中で数えきれないほどの名言、至言を残してきた。そして、それらは時代が激しく変化しようとも、色あせることなく語り継がれ、パナソニックの拠りどころとなっている。同社・歴史文化コミュニケーション室企画課の中西雅子さんは、こう語る。
「社会を豊かにして人々を幸せにするという企業の社会的使命を説いた創業者の思いは、創業100年を迎えても今なお変わることなく継承されていると思います。それは当社が2013年に掲げたブランドスローガン『A Better Life,A Better World』からも明らかといえます。お客様ひとりひとりの『より良いくらし』を創造し、地球環境への貢献をはじめ、グローバルに『より良い世界』の実現に貢献していく――ここにも間違いなく創業者の思いが息づいているのです」
それはパナソニックの改革を託されてきた近年の歴代社長の姿勢からも見て取れる。
バブル崩壊後の業績不振を受けて2000年に社長に就任した中村邦夫氏は「破壊と創造」を掲げ、「創業者の経営理念以外、すべてを見直す」と宣言。幸之助が築いた事業部制の解体やリストラによる大量の人員整理といった破壊的な改革を断行して大きな波紋を呼んだが、常に頭にあったのは「創業者ならどう判断するか」だったという。
業績をV字回復させた中村氏が好んだ幸之助の名言のひとつが「日に新た」である。毎日は同じことの繰り返しではなく、日々変化する状況に対して、気持ちを新たにして取り組むことが大切と説いたこの言葉が「中村改革」を推し進める原動力となった。また「企業は社会の公器」「すべての活動はお客様のために」という言葉も好んだという。会社は社会からの預かりものであり、事業は社会のために役立てていく。そしてお客様の視点に立つことが、社員の働きがいや生きがいになる――これらの理念が通底していたからこそ、窮地を脱することができたともいえるだろう。