■自分で作る土蔵
この野菜蔵は、ワインボトルを入れる箱から自分で作るものだ。
藁を巻いた竹の棒を、ワイン箱内側の側面に取り付ける。そこへ練り込んだ土を塗るわけだ。左官職人がやる作業を、消費者の手でこなすというものである。
筆者もキットを見せてもらった。製作に必要な竹、藁、土などは揃っているが、左官の象徴とも言えるコテはない。これは素手で土を貼り付けることを想定しているためだが、もちろん自前のコテを用意して作業してもいいだろう。
「自分で壁を塗る」という、人生であまり体験し得ないことを自宅でやる。DIYにも様々な形がある、ということだ。
■左官職人がいたからこそ
話を再び戦国時代に戻そう。
16世紀当時の日本人は、男性でも平均身長が150cmそこそこしかなかった。だが、「歩くこと」に関しては現代人を大きく凌駕している。何しろ、槍と具足を身につけて1日数十キロの山道を行軍するのだ。武田信玄の兵はなぜ強かったかというと、いざとなったら南アルプスを超えてしまうだけの機動力があったからだ。
兵を支えていたのは、野菜と大豆と玄米である。そしてこの3つのなかで最も足が早い、すなわち痛みやすいのは、やはり野菜だ。
信玄は各分野の職人を次々と甲斐へ移住させていたが、その中に左官職人もいたことは想像に難くない。彼らがいなければ野菜の長期保存は不可能で、軍も動かせなくなるからだ。
それにも増して、当時の甲斐は土地が痩せていて、水害も頻発していた。にもかかわらず、最終的に甲信越はおろか東海地方にも勢力を伸ばすまでになったのだ。
■「野菜の保存」を真剣に考える
我々現代人も、近年「野菜不足」に喘いでいる。
天候不順は野菜の発育に影響するということは、今も昔も変わらない。せっかく買ったキャベツを冷蔵庫の中で腐らせてしまう、などというのはもはや論外だ。この飽食の時代において、それでもなお「野菜は値上がりする」という事実を思い知った我々は、野菜の保存方法について真剣に考察しなければならないだろう。
野菜を土蔵に入れ、計画的に消費する。しかもその土蔵は、自分自身の手で作ったものだ。だからこそ、大地の恵みである野菜を無駄なく食べようという心構えが生まれる。
野菜蔵DIYキットは現在、Makuakeで9500円からのプレオーダーを受け付けている。なお、プロの左官職人が壁を仕上げた完成版も出展されている。配送は5月から。
【参考】
左官職人が考えた自分で作れて、野菜の美味しさを長持ちさせる「小さな野菜蔵」-Makuake
取材・文/澤田真一