■求められるのは、アグレッシブなだけでなく人間力の高い女性
「もちろん、ただアグレッシブで野心的なだけではホテリエは務まりません。男女問わず、人間力も同じくらい重視しています。つまり、人の気持ちがわかる、共感力の高い人間。
皆から好かれて信頼される人間でなければ、総支配人になっても部下はついてきませんし、良いサービスも提供できませんから。
RJETでは、2年間でホテル内の全セクションをまわった後に、真冬の北海道で最終試験が行われます。『ヒルトンニセコビレッジ』は繁忙期のスキーシーズンになると従業員が150名から350名にまで増えます。その増加した200名のうち60%は外国人の季節労働者。文化も国籍も違う彼らからマネージャーとして信頼され、スムーズに運営できる能力があるかを試されるのです」
冬のニセコでの最終試験を終えた後は東京に戻り、役員の前で2年間の成果や今後の目標を英語でプレゼンテーションする。その評価によって、最初の配属先が決定されるという。
■勤務が不規則なホテル業界でワーク・ライフ・バランスをとるには?
キャリアアップだけでなく、働きやすさももちろん大切だ。”働き方改革”の一環として、長時間労働の改善やリモートワーク導入などを進めている企業は多いが、ヒルトンもそのうちの一社だ。
ここで疑問に思うのが、土日祝・昼夜を問わずサービスを提供し続けているホテル業界において、どのように従業員のワーク・ライフ・バランスを実現していくのかということだ。
麻生氏によると、まずはバックオフィスから柔軟な働き方を試験的に導入し、その後少しずつ全社に浸透させていく予定だという。
「どうしたらヒルトンの中で女性社員の育成を強化できるか? というテーマで、2016年から毎年2月に『ウーマン・リーダーシップ・カンファレンス』を開催しています。今年は、自らおよび組織全体の意識を変えるために「Be the Change」というテーマのもと、日本・韓国・ミクロネシア地区にある16軒のホテルから、約200名が集まって話し合いました。
今年で3回目ですが、女性管理職の意見を集めてようやくわかってきたことが二つあります。一つは、長時間労働の問題。二つめは、たとえ働きやすい環境が整っていても女性のヤル気が出なければ育たないということ。
とくに、長時間労働は大きな問題だと感じます。一般社員については徹底的に労働時間の管理をしています。ホテルなのでシフトが不規則なのは仕方がないですが、きっちり定時で帰れるようにしています。
一方、管理職以上は労働時間が長くなる傾向にあるので、今短くする努力をしているところです。その中で、2017年4月から新しく始まったのが、『スライブ・アット・ヒルトン』。社員がボディ(身体)、マインド(意識)、スピリット(精神)という 3つの観点からヒルトンで成功するための取り組みです。たとえば、人事部では平日19時以降と休日のメールを一切禁止しています。
場所・時間・服など労働に関するあらゆることにフレキシビリティを求める『フレックスアレンジメント』も実施中。私のオフィスにいる部下の女性5名のうち3名は、在宅勤務も可能です。
唯一の女性総支配人がいる『ヒルトン沖縄北谷リゾート』でも、この働き方をパイロット導入しています。
このように、まずはバックオフィスから小さな努力をコツコツ積み重ね、この働き方をホテルのオペレーションやフロントにも発信していきたい」