聖パウロは雷を落とされて改心し、ニュートンはリンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を着想したが、うんこを落として(漏らして)革新的な製品を生み出した人がいる。
2013年9月のある日、カリフォルニア大学バークレー校に留学中であった中西敦士は、絶体絶命の危機にあった。住んでいるアパートの改築に伴い、徒歩で30分先にある引っ越し先にスーツケースを持って向かっている時に、猛烈な便意に襲われたのである。
あいにく周囲に公衆トイレはなく、意を決して移転先の家を目指し、便意を刺激しないよう不自然な歩き方で進んでいった。しかし、目的地まであと少しというところで「堤防は大決壊」する惨事に見舞われる。彼は、ズボンの後ろを奇妙にふくらませ、異臭を放ちながら、今度はアパートに引き返し、浴室で惨事の後始末をし、隣人からジーパンを借りてどうにか自分の人生を取り戻した。彼は、この後しばらくの期間「また漏らしてしまうのではないか」という恐怖におびえ、外出を控えたという。
普通であればこの思い出は、人生最悪の黒歴史として記憶の底に封印してしまうだろう。しかし、根っからのベンチャー気質の持ち主で、いつかグローバルにビジネスを展開したいと考えていた中西青年は、この経験をプラスの方向に転換し、『DFree』という製品として結実した。
『DFree』とは、超音波センサーを内蔵した小型のウェアラブルデバイスで、下腹部にテープで貼り付けて使う。このセンサーが体内の膀胱や直腸をモニターし、Bluetoothでクラウドにデータを送る。排泄のタイミングは独自のアルゴリズムで予測され、はっきりとした尿意・便意を感じる少し前にスマートデバイスにお知らせする仕組み。