■モバイルも自宅もバランス接続で聴きたい
ポータブルオーディオ業界はちょっとしたバランス接続ブームである。Astell&Kernが完全バランス駆動をうたったことからハイエンドモデルならバランス対応という風潮が生まれた。バランス対応と言っても、ヘッドホンまたはイヤホンがバランス接続対応、その端子に対応したハイレゾプレーヤーまたはポタアンが必要になる。また厳密に言えばヘッドホンのグラウンドが独立して接続することでクロストークをなくすグラウンド分離タイプなのか、DAC、アンプが独立して±の信号を増幅して最後に足しているのか。アンプが2個なら出力は半分で済むのでスルーレートがよくなる。具体的には音の立ち上がりと立ち下がりが良くなって、アタック感などが変わってくる。
バランス化によるデメリットはアンプもDACも回路が2倍必要になることだ。当然、大きく、重く、高価格になる可能性大だ。それから接続端子の規格が統一されていないため、ヘッドホンとポタアンまたはプレーヤーの組み合わせをしっかり決めないと接続できない。最近、JEITAがヘッドホンのためのバランス接続規格を4.4mm5極端子「RC-8441C」に規定したことを発表したが、そんなどこも使っていなかった端子を規定されても、ほんとに普及するかどうか非常に疑わしい。
私の結論はAstell&Kernの採用している2.5mm4極端子とXLR4極端子があればいい。とりあえずXLRがあればあとは変換ケーブルで何とかなるのだが、2.5mm4極は端子の接点の間隔が非常に狭いので、老眼でなくてもハンダ付けが困難。しかも接触不良になりやすいからダイレクトで接続したい。この条件でヘッドホンアンプを探すと意外に少ない。ポタアンなら2.5mm4極オンリーだし、据え置き型のヘッドホンアンプはXLRのみが多い。さらに両方付いていても音質が好みじゃないとか、いろいろ大変だ。
最終的に辿り着いたのがマス工房の作る『model404』である。
『model404』を自宅で使う場合『AK380』を接続すればPCレスでバランス駆動が実現できる。
■ポタアンだけどほとんど据え置き型
マス工房はプロ用機材がメインのメーカーで、基本受注生産、以前試聴したバランス対応の『model394』の音が素晴らしかった。『model404』も何度か試聴させてもらった。本機は電池駆動なのでポータブルアンプを名乗っているが、電池込みで重さ650gと『AK380 Copper』の350gの約2倍も重いため持ち歩く人はいないだろう。
同社の代表、増田氏によれば海外のユーザーでAK380を使っている人がいて、その人が自宅でもバランス接続で音楽を聴きたいという要望から、入力と出力を2.5mm4極対応にして、さらにモバイルバッテリーで給電できるマイクロUSB端子を付けたという。つまり用途としては据え置きでAKシリーズの接続を前提にしているのだ。それなら拙宅の環境にもピッタリなので制作をお願いした。その際にバランス入力端子は2.5mmではなく3.5mm4極を選択した。そちらの方が変換ケーブルを作りやすく接触不良のリスクも低くなると考えたからだ。
必要な変換ケーブルは2.5mmから3.5mmの4極端子、XLRバランスから3.5mmの4極端子、この2本があればモバイルでも自宅でもバランス接続が実現する。変換ケーブルの制作はハンダ付けの達人がいるORBに依頼した。