国立がん研究センターが、「がん検診や治療の体制づくり、がん研究などに役立て」るために、2016年にはじまった「全国がん登録」。これは、がんと診断された人全員のデータを、集計・分析・管理する仕組みであるが、これによって47都道府県別に、各がんの罹患率や死亡率が算出できるようになった。全国がん登録のデータによって、特定のがんにかかりやすい県や、がんの死亡率の低い県といった、県民別の情報が見える化されたのである。
今回の記事では、この制度の統計をもとに書かれた『がんで死ぬ県、死なない県 なぜ格差が生まれるのか』(松田智大/NHK出版新書)を下敷きに、地域別に見たがん罹患の特色といったものについて紹介したい。
●北海道:喫煙率全国1位で、関連するがん罹患多し
喫煙率が25%と全国1位で、口腔がんや肺がんなど、喫煙が罹患率に影響を及ぼすがんが目立つ。北海道は、女性の喫煙率が高く、全般的に禁煙に対する意識が低いとされるため、喫煙率が低下すれば、この傾向は減るとみられる。
●東北地方:青森が死亡率でワーストな一方、岩手県は「優等生」
青森県は、がんの罹患率の点では平均的ながら、いったん罹患すると死亡してしまう率が全国で最も高い。この原因は明らかになっていないものの、「病院嫌い」という県民性が影響しているという仮説が立てられている。秋田県は、がんの罹患率が全国ワースト。これは、がん検診が積極的に実施され、結果としてがんの発見率が高くなっている可能性もあるが、胃がんのリスクを高める塩分の摂取量が多いことも関係している。一方で岩手県は、がんの罹患率が低い「優等生」で、そのほかの東北地方の県も、目立って悪いデータは出ていない。
●関東地方:東京都は乳がんリスクが高い
出生率が全国で最も低い東京の場合、乳がんの罹患率が突出して高い。これは、エストロゲンというホルモンにさらされている期間が長いと、乳がんになりやすくなるため。エストロゲンは、出産によって分泌量が減るので、子供を産むと乳がんのリスクは減る。北関東(茨城、栃木、群馬)では、婦人系のがん(子宮頸がんなど)がやや目立つが、それ以外のがんの罹患率は低い。南関東(千葉、神奈川、埼玉)は、一見罹患率は低いものの、勤務先の都内病院に通う人の把握がまだ難しく、それが率を押し下げている可能性はある。
●北陸地方:酒豪の多い県は食道がんも多い
新潟県は、胃がんの罹患率で全国2位、食道がんの罹患率で全国4位(いずれも男性のデータ)。塩分摂取量が多いことで胃がんが、飲酒量が多いことで食道がんの罹患率が押し上げられていることは、確実視されている。富山県は、胃がんがやや多い程度、石川県は男性の咽頭がんが目立つが、その理由は不明だという。福井県は、出生率の高さを反映して、乳がんにかかる人が非常に少ない。