■深々とした低音が音楽の厚みを倍増させた!
『E1』を聴くために用意したヘッドホンはSENNHEISER『HD800S』とbeyerdynamic『T1 2nd Generation』である。まず専用スタンドでタテ置きにしてMac miniと接続して内蔵DACを使ってバランス接続で『T1 2nd Generation』を聴いてみよう。SHANTI「BORON TO SING/Killing me Softly With His Song」(96kHz/24bit)を再生すると『HD800S』らしい空間が感じられる。ヘッドホンのハウジングの外側まで音が広がりボーカルはセンターで歌い出す。ギターとボーカルだけのパートではあまり変化は感じられない。ところが、ベースが入ってきた途端、低音が違う。ちょっと膨らんだ感じでに思えるが、解像度は高い。スピーカーでは団子になってしまうようなベースの音階が再現される。低域から高域までスピード感が揃っているので、音場感は最初から最後まで変わらない。試聴では1曲全部聴くことはないのだが、最後まで曲に引き込まれた。
もっと低音が入っているフルオーケストラの「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(192kHz/24bit)を聴いてみると、イントロから深々とした低域に包まれる。音量を上げていってもアコースティックの楽器はどれも耳に刺さることがなく、それでいてしっかりと楽器の個々の音が分離して聞こえる。今までどのヘッドホンアンプでも聴くことのできなかった世界がここにはある。矢野沙織「矢野沙織BEST〜ジャズ回帰〜Crazy He Calls Me」(96kHz/24bit)はどこまでも心地良く演奏される。それでは突き刺さるような刺激的な高音が入っている佐咲紗花「SAYAKAVER./LEVEL5 -Judgelight-」(96kHz/24bit)はどうだろう。注意深く配置された打ち込みの音が正確に再現され、普段は気付かなかった音までが現れて、音の曼荼羅を見るようだ。そしてどこか優しい音になる。ハイレゾでなくCDからリッピングした音楽を聴いてもこの優しさが垣間見える。『HD800』では山頂から俯瞰するように聞こえる音が、『HD800S』は前に一歩踏み込んだ位置で聞こえる。この中低域の厚みは『E1』の特徴ではなく『HD800S』の特徴ではないだろうか。
それを確かめるためにヘッドホンを『T1 2nd Generation』に交換した。先ほど同じ「BORON TO SING/Killing me Softly With His Song」を再生すると、T1らしい粒立ちのいい音で、低域の解像度が極めて高く量感もある。手嶌葵「I Love Cinemas -Premium Edition-/Calling You」(96kHz/24bit)では全ての音がハッキリと顕微鏡的に描かれ、『HD800S』より明らかにモニター的に聞こえた。『E1』は水の如く無色透明でヘッドホンの音の個性を100%引き出すタイプのようだ。しかし、全くの無色であるかと言えば、そうでもない。どんな音が入ってきても破綻させず、ヘッドホンを強力にドライブしている感じがする。どんなヘッドホンも釈迦の手の上で遊ばれる孫悟空のように自由に鳴っているように思えて『E1』の支配下にある。刺激的な音を出さない優しさもある。この点はOJI Special『BDI-DC24B-G L』の方が音楽に対してシビアである。