■ど忘れを予防する5つの方法
では、ど忘れの予防とは具体的にどのようなことがあるのだろうか? 山本先生によれば、次の5つが有効だという。
1.忘れそうなものは必ずメモを取る
「メモは簡単に取ることが出来ますし、好きなときに見返すことができますので、一番アプローチしやすい予防方法です。文字によるメモも、色々な工夫があります。思いついたものをそのまま記入する方法がありますが、少し工夫してスマートフォンのTO DOリストを利用する方法、自動通知のリマインダを利用する方法があります。文字によるメモだけでなく、音声によるメモを利用する方法もあります」
2.取ったメモはきちんと見返す
「ど忘れする頻度は、メモを見返す習慣をつけることによって減少します。『エビングハウスの忘却曲線』という、人間の記憶の経過を表すものがありますが、これによれば、無意味なものを記憶しても1時間後には約50%、1日後には約70%忘れてしまうといわれています。1日後や1週間後に、メモを見直せば、記憶の定着を図ることができます。これにより、ど忘れの頻度は減少するでしょう」
3.自分の処理能力を把握して仕事量をコントロールする
「自分が同時並行に処理できる仕事量を把握することも大事です。そもそも処理能力には個人差があります。作業で必要なことを一つも忘れることなく、同時並行で進めることができる仕事の数が、一度に3つまでの人もいれば、5つまでの人もいます。あらかじめ、自分の適切な同時並行の仕事数を把握しておき、その範囲内で仕事量をコントロールすれば、ど忘れは少なくなっていきます。」
4.ど忘れしやすい「臨時の仕事」はメモでカバー
「ど忘れが発生しやすい状況としては、自分の処理能力を超えた状態の時に、さらに臨時で新しい仕事が発生する場合に多くみられます。日常の決まりきった仕事のことを『ルーチンワーク』といいますが、ルーチンワークを優先し、臨時の仕事は、先にご紹介したさまざまな方法でメモをとり、後まわしにするのでも良いでしょう。現に、1時間のうち、50分はルーチンワーク、10分を臨時に頼まれた仕事に割くといった工夫をしている方もいます」
5.覚えにくいものは、覚える「方法」を工夫する
「人の名前が覚えられないというのは、多くの方が悩んでいることです。人の名前と顔は、本来関係がありません。人の名前や物の名前の記憶のことを『意味記憶』といいます。この意味記憶は、思い出すのが難しいので、その名前の由来を尋ねたり、顔の特徴をメモしたりしましょう。『エビングハウスの忘却曲線』では、1時間後には約50%、1日後には約70%忘れるという事実を利用して、1時間後、1日後などにメモを見返すなどして、記憶のブラッシュアップをしておくと、ど忘れが減少します」
記憶力の低下は、加齢による自然現象で避けられないことだ。しかし、予防にどれだけ力を注げるかは、その人の努力と心がけしだいである。うっかり予防策をしていなかったことで、ど忘れに陥らないよう、普段から予防に力を注ごう。
(監修・取材協力)
山本 大介先生
桜川ものわすれクリニック院長。医学博士。大阪の桜川に認知症専門クリニックを開業し、本人の治療だけでなく家族の悩みを共有し解決していくスタイルの診察を行っている。
http://sakuragawa-monowasure.jp/
取材・文/石原亜香利
※記事内のデータ等については取材時のものです。