さつまいもが美味しい季節だ。さつまいもといえば焼芋やふかし芋、スイートポテト、大学芋などが定番だが、秋も深まり幾度も食べれば、ちょっと飽きが来るかもしれない。そこでおすすめなのが、愛知県を中心に東海地方で親しまれている郷土菓子「鬼まんじゅう」だ。いったいどのようなスイーツなのか、そしてその名前の秘密、家庭での食べ方に迫ってみよう。
■鬼まんじゅうとは何か?
「鬼まんじゅう」とは、愛知県を中心とした東海地方に伝わる郷土菓子だ。「鬼まん」の愛称で親しまれているこの菓子は、小麦粉と砂糖を混ぜた生地に、角切りのさつまいもを入れ、蒸してつくられる。そこに餡は入れない。
スイートポテトと大きく異なる点は、さつまいもを「つぶさない」ことにある。そして、もう一つ違うのは小麦粉・砂糖と混ぜて「蒸す」ことだ。
おかげで、食感はもっちりとしていて、程よい甘味も手伝い、なぜか懐かしさを感じる味わいがあるという。また、さつまいもをつぶさず、角切りのまま使われているため、素朴なふかし芋のような感覚もある。
■鬼まんじゅうはなぜ「鬼」まんじゅうなのか
愛知県の老舗の和菓子店の中には、鬼まんじゅうを長年扱っているところも多い。例えば、名古屋の老舗「浪越軒」では、白、黒糖、皮つきの3種の「鬼まんじゅう」と、一口サイズの「ちび鬼まんじゅう」を扱っている。
ところで、なぜこの鬼まんじゅう、「鬼」という名がついているのだろうか?
浪越軒によれば、角切りのさつまいもが、まんじゅうからゴツゴツと顔を出している様が、鬼の肌や鬼が持っている金棒を連想させることから、ついた名と伝えられているそうだ。
その名に似合わず、懐かしく優しい味わいに、ほどよいギャップがあるのも、魅力の一つだという。
気になる鬼まんじゅうの起源だが、詳細は分かっていないという。一説に、戦前、愛知県ではさつまいもの生産が盛んだったことから、身近にあった小麦粉と合わせて食べやすくしたのが始まりではないかともいわれている。
■家庭の手作りは影を潜めている!?
愛知や岐阜では、スーパーや町のちょっとした和菓子屋に行けば必ずといっていいほど売られている鬼まんじゅう。学校給食のデザートとしても定番だという。しかし、浪越軒の棚橋さんによれば、近年、家庭では影を潜めているというのだ。
「スーパーなどで気軽に買えるせいでしょうか、最近は自作する方は減っているように思います。それでも、なかには子供に安全なお菓子を食べさせたいという思いで、鬼まんじゅうを作るお母さんもいらっしゃいますが。
我が家では昔、芋のおいしい季節になると祖母がよく作っていました。祖母の鬼まんじゅうは生地部分が多く、もっちりむっちりしていて、いかにも鬼まんじゅうといった感じでした。」
家庭で作る場合、小麦粉や芋の割合はとくに決まっておらず、その食感や味は各家庭によってさまざまだという。まるで蒸しパンのようにふわふわした鬼まんじゅうを作る家庭もあるそうだ。しかし、鬼まんじゅうといえば、やはり生地のもっちり感が命。この伝統の鬼まんじゅうの食感や味は継承されていってほしいものだ。