■ホワイトカラー300万人が代替可能
「エクセル等でできる表計算は、AIでできますし」ホワイトカラーの事務職、およそ300万人が代替可能というのだ。
さらに、「会計士もAIへの代替が考えられます。決められた法律やルールの範囲内で支払う税金を、最小にするのが会計士の大きな仕事ですが、法律やルールが決まっているわけですからAIの得意な分野です。
法曹界も、今より人を減らせることができます。日本は前例主義で裁判官や弁護士、検事はこれまでの判例に照らし合わせ、この事件はこのくらいの罪だとディベートをする。膨大な判例から適した事例を検索するのは、人間よりAIのほうがずっと早いですから」
■未来社会の“幸せの追求”
――近い将来、多くの職業がAIに代替されるとなると、不安が募るのですが。
「仕事がなくなるというよりも、代わっていくというのが一つの側面です。20世紀の前半、自動車産業が勃興して馬車を操る御者は失業しましたが、代わりに自動車の技術者や、自動車工場で働くワーカーが必要となりました。そのようにどんどん入れ替わっていくと捉えるのが、正しい見方だと思います」
――しかし、AIも効率を追求するシステムですから、仕事の絶対量が減るのは確実です。
「だから僕はこれからの時代、“幸せの追求”という問題を、そして人間はどう暮らしていくべきかという社会設計を、真剣に考えていかなければいけないと思っているんですよ」
■未来社会はユートピア?
――“幸せの追求”? “人間はどう暮らしていくべきかという社会設計”?
「職がなくなるのはAIのほうが効率がいいからで、AIが社会の隅々に浸透すれば、労働時間は半減し生産量は増えるはずです。企業は利益が増せば当然、GNPも上がり、税金の総量も増えるに違いありません。
そうなったとき、国が国民の最低限の生活を保証する仕組みを考えてみてはどうか。国が国民全員に、生活に必要な最低限の現金を支給する、ベーシックインカムの制度を導入してみてはどうでしょうか」
――具体的なイメージというのは?
「例えば古代ローマ帝国では、労働は奴隷の仕事で、市民は娯楽や芸術や政治を担っていました」
――奴隷の役割をAIが引き受ける?
「そうなると思う」
――近未来の社会では、人間が食うための仕事から解放されるというわけですか。
「人には収入のため以外にも、やりたい仕事というものがあります。ボランティアもそうですが、基本的に人間は人に認められたい欲求があるし、自分の好きな仕事をすればいい」
――仕事がスポーツのように楽しくなる?
「そう、富の配分は完全にイーブンにするのではなく、やっぱり頑張った人はそれなりの取り分が得られる社会」
AIが行き渡る近未来、中島教授は一つのユートピアの到来の可能性を、イメージしているのである。
第三回に続く
取材・文/根岸康雄