そこから開発は遅々として進まず時間だけが経過する。上司への進捗報告が近づくと「アイデアに詰まり、枕元に試作機を置き、夢にまで頼った」と。土俵際まで追い詰められていった。報告日の直前、会社の隣にある公園のベンチに座りながら途方に暮れていると、目の前で小さな女の子がゴムマリをついていた。「その時、突然、時計のモジュールがボールの中に浮かんでいる絵が浮かび、頭の中で電球がピカンと光りました。モジュールが浮いている状態を時計の中で作ればいいんだと」。マリつきからヒントを得て、点接触でモジュールを支え宙吊りの状態を作る、モジュール浮遊構造が生まれ、先に考えた5段階衝撃吸収構造を組み合わせることによって、10mから落としても壊れない耐衝撃技術が完成した。
伊部さんがゴムマリから点接触構造を思いついたのが、公園内に今も残るこのベンチ。開発をしていた36年前は“青いベンチ”だったが、今では渋い色に変わっている。
G-SHOCK開発者 伊部菊雄さん
現職はカシオ計算機 時計事業部 企画統轄室のアドバイザリー・エンジニア。1976年入社。現在はカジュアルウォッチを中心に時計開発を進めている。「G-SHOCKをつくった男のシンプルなルール」の著書も刊行されている。
マリの中に浮かぶモジュールから発想した、数箇所の点でモジュールを支え、浮遊に近い状態を作る点接触構造。この構造が完成したことで『G-SHOCK』は完成した
そこから急ピッチに開発は進み、商品名もGravity(重力)のGを使った「G-SHOCK」に決定。落下強度10m、10気圧防水、10年寿命の「トリプル10」をコンセプトにした初代G-SHOCK『DW-5000C-1A』が1983年4月に発売された。
1983年
腕時計の常識を変えた初代モデル
『DW-5000C-1A』
生産終了
初代G-SHOCK。開発期間は約2年。構造開発に1年以上費やされた。「素材には当時としては珍しいウレタンを採用しました。立体成型しにくい材料でデザイン変更や素材変更を要望されましたが、工場に通い詰めて完成に漕ぎ着けました」