千日谷の名の通り高低差のある地形で、ビルや首都高速道路に囲まれる都心ならではの事情があり、設計を担当した隈氏は「見下ろされる」ことを意識したと話す。
「最近のお寺は箱のような建築が増えているが、見下ろされるということは、屋根が印象的でなければいけないと思った。また、コンパクトシティの観点から、日常生活の一部として存在するお寺は明るくて、親しみやすくて、優しいものでなかればならない。屋根は珍しいアルミ材を使った大きくて丸みのある瓦を葺いて、明るいお寺を表現するために、壁には本物の木をたくさん使っている」
「都市の中で何を核としてコミュニティを再編するかと考えたとき、お寺、お墓というのは非常に重要な要素。新しい社会像、コミュニティ像の中でモデルになるプロジェクトができる、やりがいのある仕事だった。
明治神宮外苑の杜はスポーツ施設が多くあり、緑も非常に多い場所。そこに調和したお墓を作るには、日本人が抱いていたお寺への思いを後の時代にまで引き継げるものにしたいと思っていた。ご先祖代々のお墓を大事にしている日本人の姿を、オリンピックで訪れた外国の方々にも感じ取ってもらえるといいなと思う」(隈氏)
内閣府が発表した平成28年度の高齢者白書では、65歳以上の高齢者のいる世帯は、平成27年時点で2372万世帯、全世帯の47%を占め25年前の2.8倍に。なおかつ一人世帯も増えてきており、墓の承継者がいないという問題がクローズアップされている。
「信仰の価値観、ライフスタイルの変化、少子高齢化や核家族化で人口が都心に集中するなど、お墓の維持が難しくなってきている。私たちが行った調査では、心配事の1位はお墓の承継者がいないこと。次にお墓の手入れが行き届かないということ。
地方から上京して都心にすでに家庭や持ち家がある方は、地元にあるお墓を維持するのが大変で、両親の墓をどうすればいいかと悩む人も非常に多く、墓じまいという問題も出てきている。弊社の創業地である福岡を含めた九州では、新規の建墓よりも墓じまいの件数の方が多くなっているほど。お墓が遠くてなかなか行けない方にとって、都心の墓地は大きなニーズがある」(はせがわ代表取締役社長 江崎 徹氏)
「2000年以降東京の中心に住む生活者が増えたが、都心回帰からすでに17年経過して、団塊の世代の方々はリタイアされ、都心生活者も年齢を重ねてきている。そういった世代へのビジネスとして、企業寮や大学寮の跡地を活用して、都心を中心とした有料老人ホームを展開、現在3000室程度擁している。寺社を手掛けるのは初めてだったが、高齢者ビジネスや高齢者ニーズのノウハウの蓄積があったため、お役に立てるのではと参画させていただいた」(ヒューリック代表取締役社長 吉留 学氏)