この5、6月はマイクロソフトやGoogle、アップルをはじめとした文字通り世界を動かす巨大IT企業が開発者向けのカンファレンスを開く時期だ。開発者向けということもあり、専門知識を有する人向けの内容も多いが、新サービスや新商品の発表、既存プロダクトのアップデートなども発表になり、私たちの生活が今後どう変わっていくのかという次のトレンドを知るうえで重要なイベントでもある。各社ともCEOを含む各分野のトップが登壇し、直接今後の展望などを語るとあって、注目度も高い。
今回は実際に現場で取材したマイクロソフトの開発者向けカンファレンスBuildを中心に、今後私たちの生活に目に見える影響を与えそうなトピックを中心に動向をまとめた。
Buildの冒頭でプレゼンしたMicrosoftのサティア・ナデラCEO
■現実的に役立つ、使えるAIがあなたの手の中へ
最近のIT業界のトレンドワードといえばAIだろう。人工知能が人間の能力を超えることで起こるシンギュラリティで仕事がなくなるとか、囲碁のチャンピオンに勝ったとか、そんなニュースばかりが目立つが、今回各社の発表の中にはAIが着実に我々の生活の中に浸透していっているという具体的な内容が興味深かった。
今、AI関連で一番注目を浴びているのはやっぱりスピーカーだろう。年内に日本上陸が噂されるAmazonの『Echo』、Googleの『Google Hone』をはじめ、先日アップルもSiriスマートスピーカー『HomePod』を発表した。一方で、マイクロソフトは自身が開発・販売するのではなく、コルタナの技術をOEMのような形でハードウェアパートナーに提供して、スピーカーを開発・販売する形で進めている。現時点でハーマンとhpがこの仕組みでの提供を表明しているようだ。いずれにせよ、これから下半期にかけて話題の中心となることはほぼ間違いない。ただ、すでにSiriやGoogle Assistantを使ったことのある人ならなんとなくわかるかもしれないが、個人的にはそれが登場することで生活が劇的に便利になるとはまだ思えない。あまり期待せず、でも心の中ではワクワクしつつ発売を待ちたいと思う。
先日アップルが発表したSiriスマートスピーカー『HomePod』
一方で筆者が普段の生活や仕事に関わる部分で今一番、AIの進化を実感できるのが「翻訳」だ。マイクロソフトは、自動翻訳技術「Microsoft Translator」(マイクロソフト・トランスレーター)の日本語対応を強化した。話す言葉を自動翻訳し、音声で対応する「ライブ翻訳」が追加されSkypeなどを介し、日本語で話した言葉を自動で外国語に翻訳できる。しかも個人向けでは利用無料だ。さらにパワーポイントに翻訳機能を組み込んだ「マイクロソフト・トランスレーター・パワーポイントアドイン」のプレビュー版も公開されている。この機能を使うと、プレゼンテーション中に話したことがリアルタイムに翻訳され、字幕になって表示される。もちろん、まだ完璧な翻訳は望めないが、数年前には考えられなかったほど精度が上がっている。数年のうちに、SFの中の出来事と思われていたようなことが十分に可能になるだろう。
パワーポイントの例もそうだが、マイクロソフトの場合OfficeというAIのわかりやすい一つの出口があるのが他社と違うところだ。筆者がいつになっても上達しない、エクセルの作業もゆくゆくはAIがこちらの目的を理解し、もっとスムーズにアプトプットしてくれるようになるはず、そう思うと期待が高まる。同社は「インテリジェント・クラウド」と呼ぶAIをすべてのアプリやサービスに組み込もうとしている。Azureなどクラウドサービスとも連携させ、データ処理にAIを使うことで、よりスピーディーにデータを活用できるわけだ。そうなるとPC、モバイル、音声アシスタントAIなどデバイスにかかわらず、誰もがどこででもAIを活用してデータと情報にアクセスできるようになる。今回のBuildでマイクロソフトCEOのナデラ氏は「プラットフォーム・シフトの問題は、データの問題に尽きる」と述べた。スマホの先を見据えたAIの開発まさに現在進行形で着々と進んでいる。