■連載/ペットゥモロー通信
保護犬と暮らす
ペットの市場に置いていかれた脚の悪い柴犬
愛しい愛犬が空へと旅立った後、その想い出と悲しみを胸に、愛犬の足跡を一つずつ拾い集めながら過ごす日々。風がそよぐだけで涙が溢れ、散歩で一緒に歩いた道を歩けば孤独を感じ、新緑の芽吹きを目にしては、「あのコがこれを目にすることはもうないんだ…」と心に雨が降る。
そんな一年半が過ぎた頃、Kさんは無性に犬を見たくなった、犬に触れてみたくなった。足を向けた先はペットショップでもない、ブリーダーのところでもない。とある動物保護団体であった。Kさんは、そこでしばらくボランティアをすることにしたのである。
たくさんの想い出を残してくれた“くり”(柴犬系ミックス、女のコ、享年14歳)/©KM
「命をお金でやり取りする、それが私には昔から受け入れにくいところがあって…」
Kさんには元々ペットショップやブリーダーから犬を“買う”という意識はなかった。天寿をまっとうした愛犬も動物愛護センターから引き取った柴犬系のミックスで、Kさんご家族にとっては初めての犬ながら、手がかかることもなく、人とも他の犬とも上手につきあうことができ、犬を通じての友達の輪を広げてくれもした。
ゆえに、ボランティアという形で再度犬に関わることは、ごく自然なことだったのかもしれない。こうして時間を見つけては保護された犬や猫たちの世話をするようになったKさんは、それまで殺処分という事実があることを知ってはいたが、徐々に現実を目の当たりにすることになる。
その保護団体では年間800頭以上の犬猫たちが保護され、常時100頭ほどの保護犬猫たちがいる。飼い主に放棄されたコ、動物愛護センターに収容されたコ、廃業ブリーダーからの引き取りなど理由は様々だ。ケージの中に糞尿が何層にも溜まり、尋常でない臭いが漂う中、その上で生活することを余儀なくされている犬たち、病気があってもそのまま放っておかれるコたち、繁殖犬として使えなくなれば、最低限の食事と水だけが与えられて狭いケージの中が生活場所になっている犬たち…。
下がネット状になっているケージであれば、パッドが切れてしまっている犬もいるという。そして、劣悪な環境で乱繁殖させられる親犬や、遺伝的疾患をもって生まれてきたコもたくさんいる。そういう犬猫たちが珍しくはない。愛情をかけられたこともない犬猫たちなのだ。
「ひどい状態で保護されるコたちはいっぱいいます」
次々と保護される犬猫たちは、いったいどこから生まれてくるのだろう。そこを考えなくてはいけない現実が目の前にある。そうした犬猫たちを、中には夜中まで、そして泊まり込みをしても世話をしながら心痛めるボランティアの人たち。
ある日のこと、2頭の子犬が保護団体に引き取られてきた。とあるブリーダーがペットの市場に持ち込んだものの、売れ残ったためか、そのまま放棄していったのだと。市場の関係者からKさんがボランティアをしていた保護団体に連絡が入り、引き取られる形になったそうだ。
Kさんはそのうちの1頭に目が留まった。柴犬らしい凛々しくも可愛い顔つき。しかし、見ると左の後ろ脚が変形している。他の脚に比べてその脚は細く、膝は内側に入り、そこから下は外側に外転している。売れ残った理由は、おそらくこれなのだろう。
外転している後ろ脚/©KM