【テーマ3】自分の仕事との向き合い方
《あらゆる仕事に貴賤はない。取り組む態度が肝心 》
例えば、一国の宰相と専業主婦の間には、職業としての差はない、というのがアドラーの立場。「私たちはそれぞれ役割を分担しているだけです」(岸見さん)
◎社会も職場も「分業」によって成り立っている
いくら職場では、「タテ関係ではなく、ヨコ関係だ」と言ったところで、頭では理解できても、実際の行動に移すのは難しい。
「職場での人間関係を、ビジネスライクな仕事上の関係なのか、友人に近い関係なのか、分けて考えるほうがいいでしょう」と岸見さんはアドバイスを送る。
「アドラー心理学では、『仕事の関係とは〝信用〟の関係であり、交友の関係とは〝信頼〟の関係である』と規定しています。仕事の関係とは、利害の絡んだ条件付きの関係ですね。一方、交友関係は、利害に関係なく『好きだ!』という感情で結ばれた関係です。つまり、仕事では信頼は必ずしも必要ありません」
では「信用」とは?
「アドラーは、人は『分業』という画期的な働き方を手に入れたのだと言っています。どんな仕事でもそうですが、分業によって成り立っています。社会もそうです。なくていい仕事はひとつもありません。つまり、職場とは、お互いがそれぞれの役割を担い、協力し、貢献し合っている関係といえるのです。だって否が応にも、信用して協力し合わなければ、仕事は成立しないのですから」
信用関係が成立する条件は?
「前提として、このことを理解してください。人間の価値は、『どんな仕事に従事するか』で決まるのではなく、『どんな態度で取り組むのか』によって決まるのです。だからどんな職種であろうと、自分を卑下する必要はありません。そして、もうひとつのポイントは、『能力』ではなく『態度』が重要だということです。なぜなら、人は、その人のスキルの高さのみで相手を信用するのではなく、『この人と一緒に働きたい!』という感情を重視しています。スキルが高い嘘つきの人よりも、スキルがそこそこでも誠実な人を私たちは仕事仲間として選ぶのではないでしょうか。『能力=人間性』ではないのです」
他者と「分業」して働くためには、仲間を信用しなければならない。一方、この世で生きていくためには、友人を信頼する――どんな相手でも自分から尊敬しなければならない。
◆アドラー心理学的3つの教訓
一、 仕事とは、互いに信用し合うことである
一、 仕事の中身ではなく態度で評価しよう
一、「能力=人間性」ではない。「態度」が重要
文/編集部
※記事内のデータ等については取材時のものです。