■完全ノーアイロンを訴求
そして『i-Shirt』は、2014年にターニングポイントを迎える。完全ノーアイロンを前面に謳い、新しく消臭機能を追加したのである。発売開始から6年目の2014年3月に販売数50万枚を突破したが、その後の2年弱でさらに50万枚も売れたことになる。
完全ノーアイロンとは、形態安定性を示すウォッシュ&ウェア性(W&W性)で最高の5級を獲得したということ。形態安定性に優れていると言われているワイシャツのW&W性が3.2級と言われている中で、ダントツの形態安定性を持っている。
完全ノーアイロンを実現できた理由は、糸の改質と生地の編み方にあるという。簡単に言えば、「形態安定性が5級になるような糸の改良と編み方を行なった」(宇渡氏)。高い形態安定性を維持しつつ、柄を出せるような編み方を試行錯誤して、完全ノーアイロンを実現した。
形態安定性が高いことは、発売時から理解していたが、5級とは思っていなかったという。しかし、きちんと検査したところ、5級であることが判明した。
「私がバイヤーになってからきちんと検査したら、形態安定性が最高クラスだということが判明しました。当社基準の3.5級より高いとは思っていましたが、最高の5級とは思ってもいませんでした」と宇渡氏。それまでは、特長を多く打ち出していて、かえって商品の魅力が伝わっていない面があったが、競合他社にはない完全ノーアイロンに絞って訴求することにした。
完全ノーアイロンは主婦に響くものだった。主婦が指名買いするケースが見られることがわかったことから、同社は家計を預かり節約を志向する主婦向けに完全ノーアイロンを訴求することにした。そういうこともあり、近畿、中国、四国地方だけだが、テレビCMを放映したほどである。
一方、消臭機能は、男性でも臭い気にする人を増えたことを受けて追加されたもの。従来の糸に加え、東洋紡STCが開発した消臭加工を使って仕上げた。「お客様から、臭いが気になるという声が出ることがありましたが、当初はあまりクローズアップされていませんでした。しかし、加齢臭などが世間でもクローズアップされるようになったこともあり、思い切って開発しました」と宇渡氏は振り返る。
■『i-Shirt』のノウハウをスーツに活かす
さらに2016年に入り、同社は『i-Shirt』を生かした新たな展開を図ることにした。同社は、『i-Shirt』の技術を用いたニット素材のスーツを発売しているが、今春の新作で、『i-Shirt』の開発に携わっている東洋紡STCと共同開発した生地のスーツを発売するという。首や肩にかかる負担を少なくしたことで着用時のリラックス効果が高く、『i-Shirt』と一緒に着用すれば抜群の効果を発揮する。「スーツの難しいところは、ウールのように見せること。『ウールライク』をテーマに開発しました」と宇渡氏。『i-Shirt』で苦労して得たノウハウを投入して開発したものなので、自信を持って送り出せるという。