■「布帛ライク」を目標に改良を重ねる
試行錯誤の末に完成した『i-Shirt』は、2009年のクールビズ商戦に投入された。また、同年10月には糸を見直し、ウォームビス用の『i-Shirt』を発売する。
着用時の冷感。ドライアイスとは『i-Shirt』に使われている特殊ポリエステルフィラメント糸で、東洋紡STCが開発したもの
ただ、『i-Shirt』に対する社内の反応は好ましくなかった。発売当初は店頭に立っていたという宇渡氏は、ワイシャツとは別物と捉えていたという。それは、形はワイシャツでも、厚ぼったく着心地がワイシャツとはまったく違っていたため。ワイシャツには見えない素材感、蒸れ、など問題を多く抱えていた。それに、柄や生地のバリエーションが少なく、魅力に欠ける商品展開となった。発売当初は、柄の基本であるストライプがきれいに出せないほどだった。
「今から思えば、自信を持って薦められるレベルではなかった」と振り返る宇渡氏。従来にない特徴を多く備えており勧めてはいたが、よく売れるというほどではなかった。とはいえ、一度購入されたユーザーのリピート率は高く、機能は確実に評価されていた。リピートしてくれるユーザーからは、デザインや色の少なさのほか、着心地などに関する不満が聞かれ、それらを1つずつ解消することで品質を上げていった。目標は「布帛ライク」で、布帛に近づけることであった。
宇渡氏は私見と前置きした上で、現在の『i-Shirt』はほぼ布帛に近づいたと評価する。2015年頃から、ほぼ完成に近づいたというが、こう評するのはニットではできないジャガード柄ができるようになったためである。「高級感のあるジャガードは布帛では多い柄ですが、これがどうしてもできませんでした。これをつくるのが大変でしたし、当初、編み機は日本に1台だけでした。東洋紡STCと開発を進めながら、いろいろ試行錯誤してもらっただけでなく、編み機の増設もお願いしたほどです」と宇渡氏は言う。