■連載/ヒット商品開発秘話
スーツ専門店チェーンの「はるやま」「P.S.FA」「フォーエル」といった業態を全国展開する、はるやま商事が2009年4月に発売した『i-Shirt(アイシャツ)』が売れている。ポリエステル製のニット生地でつくられており、ストレッチ性や通気性、吸水速乾性に優れているが、何よりも目を引く特長は、完全ノーアイロンを実現したこと。シワにならないため洗って干すだけでよく、アイロンがけを不要にした。ビジネスマンや就活生に支持され、2016年1月に販売数が100万枚を突破した。
■きっかけは北京オリンピック
『i-Shirt』誕生のきっかけは、2008年に開催された北京オリンピックにある。同社は北京オリンピックでJOC(日本オリンピック委員会)のオフィシャルパートナーを務め、選手にオフィシャルスーツとシャツを提供していた。このときJOCは同社に、シワにならず吸水速乾性に優れた、着やすいものを要求した。
「JOCの要求に応えるため、選手が一番着慣れているユニフォームやスポーツウェアに着目しました。これにヒントを得て、ビジネスマンのユニフォームであるワイシャツやスーツに着やすさを採り入れられないだろうか、ということから始まりました」
このように話すのは、はるやま商品課 課長の宇渡弘毅氏。JOCから要求されたことをワイシャツで実現するための試行錯誤が始まることになった。
着やすいワイシャツをつくるには、従来のワイシャツの常識を覆すことをしなければならない。そのため、見直しは材料の選定や製造法にまで及んだ。様々検討した結果、当時のサッカー日本代表の選手が着用していたユニフォームに使われていたのと同じポリエステル繊維を使い、それを布帛(ふはく ※)にするのではなくニット生地にすることにした。ワイシャツは通常、布帛を使うものだが、ニット生地を使うことにしたのは、ストレッチ性を持たせるためだった。
※経糸と緯糸を使って織られたストレッチ性のない繊維製品の総称。
しかし、材料はサッカー日本代表のユニフォームとまったく同じではない。ユニフォームのように薄くペラっとならないよう、透けないように糸を見直した。透けない最適な生地をつくるため、改良した様々な糸で試作をつくり、検証を重ねた。同社だけでなく糸を開発した東洋紡STCや編み機メーカーも、この糸をビジネスウェアに使うノウハウがない。誰もが何もわからない中で、試行錯誤をひたすら繰り返した。