【「俯瞰して見ることで自分も成長し続けられる」良品計画前会長・松井忠三さん】
誰もがスマホやPCを持ち歩き、スケジュール管理やメモなど機能的には手帳はなくても全く問題ない時代だ。それにもかかわらず、手帳人気は過熱する一方。その理由はどこにあるのか……達人に聞いて見えた答えとは?
◎自分の成長を確認する長期スパンの手帳使い
ドサッと積み上げられた手帳の山。それを一冊一冊、愛おしむように開きながら、“紙の手帳”の魅力を語ってくれたのは、松井忠三さん。「無印良品」でおなじみの良品計画の前会長だ。松井さんは古い手帳を捨てずにずっと保管しているという。
「仕事が忙しくなった92年から、すべて取ってあります。というのも“過去の自分”から学ぶことが多いからなんです」
と話しつつ、昨年と今年の手帳2冊を取り出し、同じ日付のページを見せてくれた。
「過去と今の自分が、同じようなスケジュールで動いていないかどうか確認するんです。仕事というものはルーティンになりがちでしょ? それって、つまり変化がない=自分が“成長”していない証。忙しさにかまけているとそれに気がつかないけど、手帳を通して、過去と今の自分を比較することができる。だから、捨てられないんですよ」
というと、日記のように自身の内面まで事細かに書き留めているように思えるが、そうではない。極めて事務的に予定をメモしているだけ。だが、天気、健康状態、気になる言葉など、その情報量は半端ではない。
「簡潔な情報でも、自らの手で記したことは忘れにくい。特にこの手帳は、ページを開くとまず年間予定表があり、次に月間、最後に週間があるレイアウト。長いスパンから短いスパンまで、すぐに一覧できる。これが重要! 時間の流れを通して、過去に何を思ったのか、そして今、自分がやるべきことが何か、ということが見えてくる。つまり、自分を“俯瞰”するのです。これが人の成長にとってすごく大事なこと。その手助けをしてくれるのが手帳なのだと思います」
1949年、静岡生まれ。92年に良品計画入社後、経営不振に陥っていた同社をV字回復へ。退職後、自身で立ち上げた「松井オフィス」で、コンサルティングや講演などを行なう。