スクリーンから押し寄せる迫力と、胸を打つ人間ドラマの集合体『ゴジラ-0.0』。その根底にある創造性を実現する現場に、一台の、ある意味で場違いな家電製品が紛れ込んでいた。ドウシシャの扇風機「Kamomefan」だ。なぜ? どのように? 今回、現場の最前線で音を収録する録音担当の竹内久史氏、カメラワークの特殊機材を操るオペレーターの奥田悟氏、そして扇風機「Kamomefan」開発担当の綱島晴樹氏が集結。撮影現場でのエピソードやコラボモデルの魅力をたっぷりうかがった。
録音方と特機方……ふたりのプロが語る「現場の音」
撮影の現場において、彼らはどのような役割を担っていたのだろう。まず録音の竹内氏にご自身の仕事像を説明いただこう。
竹内氏:「僕の仕事は基本的に、現場の音をすべて収録することです。第一に役者のセリフ、それから足音やアクションなどのノイズ、ロケ現場の環境音、エキストラの大歓声や悲鳴まで。これらは『プリプロ』と呼ばれる現場の作業ですが、現場が終わった後の『ポスプロ』でも、録ってきた音をクリーニングして、最終的に画と音を合わせるファイナルミックス(ダビング作業)まで一貫して立ち会います」。
一方で、カメラワークに付随する特殊機材や現場のエフェクトを仕切るのが奥田氏だ。日本ではおそらく100人程度しかいないのでは、という専門職である。
奥田氏:「クレーンやレールといった特機(特殊機材)のオペレーティングやマネジメントが僕の仕事です。それとは別に、雨降らし、風、雪降らしなども担当します。映画『ゴジラ-1.0』の時も雨・雪・風、全部やりました(笑)」。
映像を作るために効果を仕掛ける奥田氏と、現場の音を極限までクリアに拾いたい竹内氏。ここに、撮影現場ならではの葛藤が生まれることになる。
セット撮影の宿命――相反する「風」と「音」
映画のセット撮影では、自然の風が一切吹かない。そのため、そのまま撮影すると画面内の植物や美術品が固定されて自然観が失われ、セット感が出てしまうのだ。
奥田氏:「ロケであれば自然の風があるので無風状態はない。しかしセットは無風です。テラスに置いてある植栽なども、風にそよがないと嘘っぽくなる。無風に見えても自然ってなんとなく揺れてるんですね。だからセット撮影では、扇風機が絶対に必要です」。
しかし、従来の扇風機を現場に持ち込むことは、録音の竹内氏にとって頭の痛い問題だった。
竹内氏:「一般的な扇風機は風切り音があり、モーター音が発生して、もちろん電源コードをつなぐ必要がある。その環境下で音を録るとなると、動作音が気になるシーンがあります。映像効果としては、植栽や美術品を揺らしたい、俳優の髪をたなびかせたいと考えます。しかし俳優にもっとも近い場所でセリフを明瞭に録ろうとする私たちからすると、風切り音まで録ってしまう状態になるのです」。
映像のリアリティのために風を吹かせれば、モーター音をも収録してしまう。かといって音を優先して風を止めれば、映像が嘘っぽくなる。映画は映像と音の双方が成立しなければ作品にならない。これまでは「アフレコ(声の吹き替え)」やサウンドオンリー(音を録るためだけの演技)で対応することもあったが、可能な限り現場音を使い作品の音として成立させたい。
竹内氏:「泣き芝居や、感情の高ぶるシーンは、役者がその瞬間に見せた芝居を大切にしたい。それをアフレコにする選択肢は考えたくありません。録音部として技術的な良し悪しだけで判断するのではなく、その芝居を活かしながら、作品の中で成立する音として録音することが大切です」。
「Kamomefan」という解決策
これら現場での悩みを解決に導いたのが、ドウシシャの扇風機「Kamomefan」だった。竹内氏が後輩から情報を得て現場に持ち込み、奥田氏に提案したのがすべての始まりだったという。
竹内氏:「『Kamomefan』を使うメリットは静音性です。2.7dBという数値は相当小さいレベルで『回ってる?』と思うほどなのに風は遠くまで届く。そしてバッテリーパックを使えばコードレス化できるので、奥田さんが吹かせたいと思ったところで回せます。この使い勝手の良さも素晴らしい」。
奥田氏:「特に女優さんの場合は前髪周辺に風を当てることが多いのですが、まともに当てると目が乾き、目が乾くとまばたきが増えるので、重要なセリフの時にまばたきが出てNGになることも。でも『カモメ君』(奥田さんはKamomefanをこう呼ぶ)を使えば、身体に当てて風をバウンス(跳ね返し)させればそれらを防ぐことができます」。
撮影現場に30台のカモメファンがずらり
前作映画『ゴジラ-1.0』から導入された「Kamomefan」だったが、単に使用しただけではなく、より効率的な運用ができるよう工夫が凝らされていた。
竹内氏:映画「『ゴジラ-1.0』の時はWi-Fiでアプリ管理できるプラグを買ってオンオフを一括操作しました。カメラが移動し、画面に映らなくなった順にアプリで消していくと必要最小限の台数で済むので音の発生も抑えられるのです」。
奥田氏:「あれはすごい工夫だったね!扇風機はあちこちに見えないよう配置してあるから、個別に作業したら結構時間かかるから」。
そして今回の映画『ゴジラ-0.0』では、合計30台の「Kamomefan」が投入された。
奥田氏:「植栽のそよぎやゆらぎの風を、本体のダイヤルで微調整できるのがすごく役立ちました。一般の扇風機だとリモコンや本体操作する際も『ピピッ』って操作音が鳴ってマイクに入りますが、ダイヤル式だから音もなく風量の上げ下げができる。あ、それから電源投入時にカモメの鳴き声がするんですよ。それが響くと役者さんたちが『そろそろ始まるぞ』って心構えができ、しかも柔らかい音だから和むんですよね(笑)」。
竹内氏:「山崎貴監督も現場で『この「Kamomefan」があるのは、自分の作品作りにおいて助かっている』とおっしゃっていました」




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