すかいらーくホールディングスは、炭火焼干物定食「しんぱち食堂」の運営会社·株式会社しんぱちの全株を今年4月に約110億円で取得しました。しんぱち食堂は都市部を中心に干物料理を提供しています。
すかいらーくは2024年に「資さんうどん」を買収、店舗数を拡大していました。なぜM&Aを加速しているのでしょうか。
「ガスト」は特別な日に利用するレストランに

すかいらーくの主力業態である「ガスト」は、2022年ごろから値上げを繰り返してきました。看板商品である「チーズINハンバーグ」は、コロナ前は通常価格599円(税抜)で提供されていましたが、現在は都心部での価格が779円(税抜)。税込価格857円まで上がっています。
デフレ下におけるファミリーレストランは、誰でも気軽に食事ができるというポジションを確立していました。しかし、インフレで値上げを余儀なくされた今は、ちょっと贅沢な食事を楽しむ場所になりつつあります。ハレの日需要で利用するレストランへと傾いているのです。
すかいらーくは、全国で展開する3219店舗のうち、およそ4割を主力業態のガストが占めています。
ガストの値上げによって、すかいらーくの既存店の客数が著しく減少した形跡はありません。2023年の既存店客数は前年比9.5%の増加、2024年は6.9%の増加です。
しかし、ガストの店舗数は減少しています。2022年12月末は1317店舗でしたが、2026年9月末は1202店舗。
一方、「バーミヤン」や「しゃぶ葉」などの店舗を増やしており、他の業態に転換することによって客数減を防ぐ姿勢を強めるようになりました。「しゃぶ葉」は2022年12月末の店舗数が276店舗で、2026年9月末が336店舗。すかいらーくの既存ブランドの中で特に数を増やしている業態です。
「しゃぶ葉」は、物語コーポレーションの「焼肉きんぐ」やFOOD&LIFE COMPANIESの「スシロー」などと同じくハレの日需要の受け皿としての役割が強く、こうした業態の中でも価格が安めに設定されているブランドは好調を維持しています。節約志向の高まりでレジャーが内向きになっており、近場で余暇を過ごす行動様式が広がっていることが背景の一つにあると考えられます。
一方、すかいらーくは日常食レストランの性格が弱まる懸念があります。その空白を埋めるのが資さんうどんでした。
エリア最適へとシフトしたすかいらーく
資さんうどんは今年1月末の店舗数が95店舗でしたが、10月末には121店舗まで増えています。ガストを転換する動きを強めているのです。
すかいらーくは、個別ブランドの収益を最大化するのではなく、エリア全体の収益の最適化という戦略を明確に打ち出すようになりました。つまり、「ガスト〇〇店」を転換などによって高収益化するのではなく、「〇〇エリア」の外食ポテンシャルを加味したうえでシェアを最大化することに力を注いでいるのです。
資さんうどんは比較的低価格で、北九州のソウルフードとしても定着していました。現在も根強いファンに支えられています。将棋の藤井聡太さんが勝負メシで定番メニュー「肉ごぼ天うどん」を選ぶなど、話題性もあるブランドです。
うどん店が郊外のロードサイド型でも集客力が十分あるのは、トリドールホールディングスが展開する「丸亀製麺」で実証済みでした。吉野家ホールディングスが運営する「はなまるうどん」は駅前などの繁華街や地下街、ショッピングモールを中心に展開。はなまるの足元の業績も堅調です。
つまり、資さんうどんは全国チェーンのすかいらーくが日常食の需要を獲得するのにうってつけの業態だったのです。
しかし、国内のうどん業態は飽和気味になっているのも事実。トリドールは2026年4月~6月の国内丸亀製麺事業の売上収益が過去最高を達成したものの、16%もの減益でした。人件費や販管費の増加を増収で補うことができませんでした。
うどん業態単体で、十分な収益性を得られなくなっているのです。
値上げで相対的な魅力が上がった定食業態

しんぱち食堂は都市部の店舗網に強みを持っています。すかいらーくは郊外型の店舗ネットワークが盤石ですが、都市部はやや手薄な状態。このM&Aはエリアの収益最適化を目指すすかいらーくにとって、弱点を克服するものとなりそう。
そして、食堂という新たな業態を手にして事業ポートフォリオを強固なものにすることができます。
食堂はインフレの今、注目度が上がっている業態でもあります。ラーメンやハンバーガーなどの単価が上がったことで、食堂で提供される食事は相対的な魅力が高まっているのです。バランスの良い食事を豊富な種類の中から選択できるためです。
「大戸屋ごはん処」を運営する大戸屋ホールディングスは、2026年4月~6月が18%の増収、22%の営業増益でした。プレナスが運営する「やよい軒」も2026年3月~8月の営業収益が約9%増加しています。食堂は将来性の高い業態なのです。
エリア収益の最適化を目指すすかいらーくは、消費者の外食ニーズに沿って今後も多ブランド化するかもしれません。インフレは企業の戦略も大きく変化させています。
文/不破聡




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