今から約15年後の2040年、私たちの暮らしはどう変わっているのだろうか。そんな未来を考えるヒントになるのが、国内電通グループの横断組織、未来事業創研が発表した「電通未来ファインダー for AI」だ。企業が中長期のビジョンや新規事業などを考えるために電通が作成・提供しているツールだが、そこで示されている未来の可能性を紐解くと、2040年の私たちの暮らしも見えてくる。
電通のチーフディレクターでもあり未来事業創研ファウンダーの吉田健太郎さんに2040年にはどんな「当たり前」が生まれている可能性があるのか話を聞いた。
2040年の未来を「181のテーマ」から考える
そもそも「電通未来ファインダー for AI」とは、どのようなものなのか。
電通では以前から、未来の社会変化を企業のビジョン策定や新規事業開発などに活用する「未来ファインダー」というツールを展開してきた。最新版では2040年の未来に向けて、食や金融、保険、テクノロジー、エンタメ、生活行動など、181のテーマの未来の可能性を可視化している。

吉田さんは次のように説明する。
「基本的には、企業が長期のビジョンや事業開発、戦略を考えるときに、可能性を広げるために使うものです。自身の業界だけでなく、隣接領域を横断的に俯瞰したり、普段は関わりのない業界を理解する入り口にしたりと、企業によってさまざまな活用法があります。
人間は誰しもバイアスを持っています。たとえば出版業界にいれば出版のことは詳しいけれど、『5年後、10年後に農業がどうなるか』なんて普段はあまり考えないのではないでしょうか。しかし、食生活や購買行動が変われば、それによって出版やメディアにも新しいチャンスが生まれるかもしれない。
だから、自分たちの業界だけを見るのではなく、社会全体でどんな変化が起こる可能性があるのかを見てもらう。今の延長線上だけで考えると、どうしても選択肢が狭くなってしまうので、『こういう未来もあるかもしれない』と視野を広げてもらうためのものです」
「電通未来ファインダー for AI」は、企業の中長期ビジョンや事業戦略の策定などに活用するためのツールだ。しかし、181のテーマを生活者の視点から紐解いていくと、2040年には私たちの「当たり前」がどう変わっているのか、その可能性も見えてくる。
健康志向が進むと「ジャンクフード」が贅沢品になる?
では、181のテーマからは、2040年の私たちの暮らしにどんな変化が見えてくるのだろうか。そのひとつが、健康に対する意識の変化だ。健康データの可視化が進めば、私たちは今以上に自分の身体を数字で意識するようになるという。
「たとえばスマートウォッチなどを使っていると歩数が出ますよね。1万歩が目標なのに8000歩だったら、『もうちょっと歩こう』『少し遠回りして帰ろう』となる。数字が見えることで新しい行動が生まれて、健康意識も高まっていく。そうすると、食生活も健康志向になっていく人が増えると思います。
一方で、社会全体が健康志向に寄っていくと、その反動も出てくる。たとえばジャンキーな食べ物や嗜好品が、逆にすごく贅沢なものになっていく可能性がありますし、メンタルコントロールやヘルスケアのために、嗜好品やジャンクなものを定期的に食べることに意味がある、という考え方も広がるかもしれません」
健康志向の拡大は想像に難くないが、その結果、ジャンクフードがなくなるとは限らないわけである。むしろ健康的な生活が当たり前になればなるほど、「あえて不健康なものを楽しむ」ことに別の価値が生まれるかもしれない。
「電通未来ファインダー for AI」では、こうした一方向への変化だけでなく、その反動によって生まれる新たな価値も未来の可能性を分析している。さらに食に関するテーマを見ていくと、現在の「1日3食」という当たり前そのものが変わる可能性もあるという。
「今は3食と言われていますが、朝食を食べない若い人も多い。代わりに会社に行って10時ごろにお菓子を食べたり、集中力が落ちたときに食べるものだったり、機能をうたったグミだったり、ベネフィット型の食も増えています。
つまり食べることが単純に胃袋を満たすのではなく、身体に何かの機能を付与するようなものになっていくかもしれない。必要なタイミングで必要なものを摂るようになれば、1日10回くらい食べる人が普通になる可能性だってあります。
同時に、栄養を摂る食事と食体験は別になっていくかもしれません。好きな人と一緒に食べるという体験が癒やしになるように、食がフィジカルではなく、メンタルウェルネスとしての意味を強く持つことも考えられます」
AIが便利になるほど「あえて失敗する」ことに価値が生まれる?
こうした「反動」は、AIの普及によっても起こる可能性がある。AIが自分に合った商品や店、旅行先などを提案してくれるようになれば、私たちは効率よく「正解」にたどり着けるようになる。その一方で、すべてが最適化されるからこそ、あえてそこから外れようとする人も出てくるという。

「AIが普及していくと、いろいろなことが最適化されていきます。そうすると、デジタルデトックスのような動きが出てきたり、逆にわざと失敗したり、自分の感覚で試したりする人も出てくる可能性は十分考えられます。
AIによって便利になっていく一方で、最終的には『人間じゃないとできないことは何だろう』『人間らしいことって何だろう』というところに価値が戻ってくるのではないでしょうか」
最短ルートを教えてもらえるからこそ、遠回りしてみる。失敗しない選択肢がわかっているからこそ、自分の感覚で選んでみる。AIによってあらゆるものが効率化される未来では、現在なら「無駄」と考えてしまうような行動が、逆に贅沢な体験になっているのかもしれない。
もちろん、これらは数ある未来の可能性のひとつにすぎない。果たして2040年、私たちの暮らしの「当たり前」はどう変わっているのだろうか。その答えがわかる日を楽しみにしたい。
取材・文/峯亮佑 撮影/干川修




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