■連載/ヒット商品開発秘話
まるで生のような食感が特徴の生ドーナツが人気を博している。不二家も2026年6月、『不二家の生ドーナツ』を全国の不二家洋菓子店ほか、不二家ブランドの一部店舗、一部の不二家レストランでの販売だが、売上が発売から約4か月間で累計100万個を突破した。
米油で揚げ、空気を含ませるように仕上げたほどよい弾力のあるドーナツ生地に、ショートケーキに使われている不二家自慢のシャンテリークリームや、こだわりのペースト、ジャムをサンド。10月19日時点で、通年販売のミルキー、チョコレート、期間限定の渋皮栗、千葉県市川産和梨の4種を販売している。
開発期間は1か月、洋菓子発想の生ドーナツ
生ドーナツを開発することにした背景には、6月から8月にかけての夏季は洋菓子の売上が落ち込むことにあった。2026年はこれに加えて、原材料の高騰など洋菓子事業を取り巻く環境の変化もあり、新たな売上の柱となる商品の開発が求められていた。
「昨今、ケーキをはじめとする様々な商品が値上がりしている中で、販売スタイルも変化しています。こうした中でお客様に気軽に楽しんでいただける新たなヒーロー商品の開発が課題と感じていました」
こう明かすのは、洋菓子事業本部営業本部マーケティング部営業推進課 課長の瓜生麻未さん。2026年5月に企画し、すぐさま開発に着手した。
ケーキのイメージが強い不二家でドーナツをつくることにしたのは、ドーナツ専門店であるペコちゃんmilkyドーナツの存在があった。2024年9月に誕生したペコちゃんmilkyドーナツは現在、全国に21店舗を展開。メディアで話題になることが多く支持が得られていることから、トレンドである生ドーナツを洋菓子発想でつくってみることにした。
ケーキより安く買いやすい価格に

フレーバーに選ばれたのは、ミルキー、ストロベリー、チョコレートの3つ。同時に、季節限定フレーバーとして塩レモン〈瀬戸内産〉もつくることにした。瓜生さんは次のように話す。
「生の食感をつくるために、シャンテリークリームを使うことにしたのですが、フレーバーはドーナツ生地とシャンテリークリームと組み合わせた時に相性が良いものを選びました。一番相性が良いのは、不二家でしか味わえないミルキーですので絶対外せません。ショートケーキに使われているシャンテリークリームを使うので、ストロベリーも間違いありません。チョコレートは甘いものではなく甘さ控えめなビターなものなので、相性が非常に良いです」
生地はペコちゃんmilkyドーナツで販売しているドーナツと同じ。生の食感を感じられるよう、開発では口に入れた瞬間生地がふわっとほどけることにこだわった。通常は常温で販売しているドーナツをケーキ同様チルドで販売するので、チルドケースに入れている間、乾燥しないよう生地の油分を調整するなど短期間で試行錯誤を繰り返すことになった。
「試作品を食べた時、すごく美味しかったです。揚げている上にクリームがたっぷり入っているので重そうに感じられますが、一口食べたらもう一口食べたくなるものでした」と振り返る瓜生さん。ボリュームある見た目に反して軽いことから完成度の高さをうかがわせるが、一発OKとはならなかった。副社長をはじめとした関係者から挙がった改良点を工場はすぐ反映し、急いで次の試作品を持ってくることを3回ほど繰り返した。
一発OKとならなかった最大の理由はコスト。原材料価格の高騰などを受けて購入を控えるようになった消費者に再び手に取ってもらうことを目指して始まった開発だったため、ケーキより価格を抑えることが求められた。2026年6月時点でのケーキの販売価格は、多くが500円を超えるものだったことから、『不二家の生ドーナツ』は388円で販売することにした。
「お客様が買いやすくなるよう400円を切る388円という販売価格を実現しつつ満足感を損なわないようにするため、クリームとソースの量を見極めなければなりませんでした」
このように話す瓜生さん。製造時にクリームを手絞りにするか機械絞りにするかどうかも検討されたほどだった。
また、提供する際はハンバーガー袋に入れて提供するようにした。これはペコちゃんmilkyドーナツと同じ提供方法で、手を汚さずワンハンドで食べられるよう食べやすさにも配慮した。
本気で売るため社員が店頭に立ち試食を働きかける
同社は発売日の6月1日から全店で試食を実施。不二家の社員も6月3日まで店頭に立ち、積極的に試食を促していった。全店規模で一斉に試食を実施するのは、同社ではほぼ例がないことだった。
社員が先頭に立って試食を働きかけたのは、お客様に知ってもらうと同時に店舗にこの商品の重要性を示すためであった。
試食を実施した効果は大きく、食べた人の大半は購入。取り扱いに消極的だった店舗も、売れる商品だと確信できたことから、取り扱いに前向きになり、現在はほぼ全店で販売されている。
店舗での試食と同時に、初の試みとしてメディアとインフルエンサー向けのPR試食会を実施し、話題にしてもらうことを狙った。試食会は6月3日に同社本社で実施。当日は台風で記録的な大雨となったが欠席したメディアは5つのみで、30以上のメディアが出席した。ネットニュースですぐ取り上げてもらえたこともあり、この週の週末は店舗に『不二家の生ドーナツ』買い求める人が多く訪れたという。
こうした取り組みにより、6月はケーキよりも売れたほど。ただ、その裏では生産が間に合わないという事態に直面した。ケーキをつくる工場で生産することから、ドーナツ生地を揚げるのに必要なフライヤーが小型のものしかなく、生地を揚げるのも手作業。生地を発酵させるための発酵室も小さく、一度に多くつくることができなかった。毎日決まった数量しかつくれず、店舗によっては全種類揃えたくでもできないこともあるという。
これらのほか、Xのリポストキャンペーンを実施したり、店舗によっては幟(のぼり)旗を立てたりするなどの販促策を実施してきた。Xのリポストキャンペーンについては〝#不二家の生ドーナツ〟というハッシュタグを入れると当選率がアップするとしたことから、一時はXのトレンドに〝#不二家の生ドーナツ〟があがったこともあった。
季節限定フレーバーを高頻度で発売
また、販売面での最大の特徴といってもいいのが、飽きさせないために季節限定フレーバーを高頻度で発売するようにしたこと。2~3週間ペースで季節限定フレーバーを1種発売している。
6月22日に塩レモン〈瀬戸内産〉を発売した以降は、7月13日に長野県産森のサファイア、8月3日に山形県産白桃、8月24日に長野県産ナガノパープル、9月14日に渋皮栗、10月1日に千葉県市川産和梨、10月26日に北海道産えびすかぼちゃを発売しており、11月1日に復刻カスタード、11月21日にブラックが発売される。復刻カスタードは、ドーナツ生地にシャンテリークリームと1993年当時の配合を復刻させたカスタードクリーム、ブラックは真っ黒なドーナツ生地にシャンテリークリームとチョコガナッシュをサンドしたものになる。
季節限定の中でも売れ行きがいいのが渋皮栗。予定ではすでに販売が終了しているが、あまりにも好評のため販売継続を望む声が多いことから、いったんストロベリーの販売を休止して販売を継続している。
取材からわかった『不二家の生ドーナツ』のヒット要因3
1.不二家ならではの商品を実現
ペコちゃんmilkyドーナツの展開で得たノウハウに、生地や味づくりに洋菓子づくりで培った技術や発想をプラスして開発。不二家洋菓子店ならではのドーナツをつくることができた。
2.価格を抑えた高コスパ
1個388円と不二家洋菓子店に並ぶケーキと比べると低価格。それでいながら、ケーキと同じシャンテリークリームを使ったり生地を米油で揚げたりなど味や食感にこだわり、コストパフォーマンスが高い一品になった。
3.季節限定フレーバーの積極投入
通年販売する定番フレーバーのほか、施策として季節限定フレーバーを積極的に発売。飽きさせないことと話題づくりの両面で功を奏している。
『不二家の生ドーナツ』は本気で売っていく商品だということを示す社内の取り組みとして、瓜生さんが所属する洋菓子事業本部営業本部のオフィスには「生ドーナツメーター」が掲示されている。発売が始まった6月1日からの累計販売数を毎日のように更新しており、オフィスのどこにいても売れ行きがひと目でわかるようになっているという。
「今でも『不二家がどうして今、生ドーナツをやるんですか?』と言われます」と話す瓜生さん。ケーキを代表とする洋菓子のイメージが強いからこそ生まれた意外性だが、伝統や企業イメージを守りつつも新しいことにチャレンジする姿勢は老舗ならではといってもいいだろう。
取材・文/大沢裕司
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