パワハラにセクハラ、カスハラ…。厚生労働省が定義しているハラスメントの種類は50以上にのぼる。
ハラスメントとは、発言や行動、行為によって相手に不快感を与えたり、脅しとして捉えられたりすること。近年は種類が増えて、社会問題化しつつある。
また、厚生労働省が認定したもの以外にも、普段の生活の中から生まれ、名付けられたものもある。そんな中で2026年に注目されているのが『フキハラ(不機嫌ハラスメント)』だ。
特定の法律で定義されたハラスメントではないが、組織の生産性を低下させるとして問題視され始めている。
不機嫌になること自体はハラスメントではない
誰にでも機嫌の悪い日はある。仕事で失敗したときに落ち込んだり、疲れが溜まっていたり、思い通りに物事が進まないとき、あるいは体調が悪いなど、感情が態度に表れてしまうこともある。
もちろん、不機嫌になること自体が、すぐにフキハラになるわけではない。
問題なのは、不機嫌な態度が繰り返されることで、周囲が萎縮したり、相手の顔色をうかがわざるを得なくなったりする場合だ。
例えば職場で上司に話しかけたら返事はなく、深いため息をつかれた、気に入らないことがあると露骨に無視する、物を乱暴に置く、キーボードを叩きつけるようにタイピングする、必要な連絡をしないといった行動だ。
本人が直接的な言葉で攻撃していなくても、周囲に「自分が何とかしなければ」という心理的な負担を与えることがある。
そのおかげで周囲が萎縮したり、相手の顔色をうかがわざるを得なくなったりする。職場や部署に1人いるだけで周囲にネガティブな感情が〝伝染〟して、部署全体の生産性や雰囲気を著しく低下させる強い破壊力を持っているのだ。
なぜ不機嫌な態度で周囲を困らせるのか
背景には、感情をうまく言葉にできないことや、自分の不満を相手に察して欲しいという心理があるのかもしれない。
フキハラ民には、本来なら「この仕事の進め方を見直してほしい」「今は少し一人になりたい」と言葉で伝えれば済むことでも、黙り込んだり、冷たい態度を取ったりすることで相手に気づかせよう、気づいて欲しいという気持ちが働いているのだ。
すると周囲の人が疲弊するだけでなく、本人も率直なコミュニケーションを得られなくなる。問題を解決するための話し合いができず、不満だけが積み重なってしまうのだ。
フキハラをする人に周囲が気を遣いすぎることで、職場全体が「腫れ物に触るようなピリピリした空気」に支配されるようになる。
そんな状態になると、他人が不機嫌になると気が付かないうちに自分も同じような気持ちになりやすくなる。つまり、周囲にどんどん伝染していくのである。
では、なぜ伝染するのか
筆者はある競技の指導者資格を取るために「スポーツ心理学」の講習を受けたことがある。
そのときに知ったのが、他人の感情が周囲に移る現象は心理学では「感情の伝染(Emotional Contagion)」と呼ばれる状態だということ。
特にネガティブな感情は次のような理由で強い伝播力を持っているということだった。
1.ミラーニューロンの働き
人間の脳は、無意識に目の前の人の表情や雰囲気を模倣し、同じ感情を抱きやすくなる仕組みを持っている。
2.防衛反応が働く
当事者だけでなく、目撃している周囲の人は「自分が何か怒らせることをしただろうか」「巻き込まれたくない」と過剰に不安感が積もり、緊張状態に陥る。この緊張やストレスが、ミラーニューロンの作用でさらに別の人へと連鎖していく。
3.職場・部署の空気が悪くなる
常に緊張を強いられるため、集中力が切れてミスが増え、別の誰かに不機嫌に当たってしまうという負のスパイラルが生まれる。
これをチームスポーツに置き替えると、練習中あるいは試合中にネガティブな感情を持った選手が一人でもいれば、他のチームメイトに伝搬してチーム力を下げて本来持っている力を発揮でき無くなってしまうということ。
特に「3」が問題なってくる。試合中でも練習中でも同じだ。ミスが増えて他の選手に当たってしまったり、連携が取れなくなったりしてしまうのだ。筆者はこれが職場にも置き換えられると考えている。
フキハラが伝染していくと次のような悪影響がある。
1.業務効率の低下
怒らせたり、不機嫌にさせたりするのが怖くて、仕事に必要な報告や連絡、相談、いわゆるホウレンソウが遅くなる。
2.業務中のミスや離職が増える
いつも緊張を強いられるので、集中力が切れてミスが増えていき、耐えかねた優秀な人材から辞めていく。
そしてストレスが溜まった他のメンバーも、別の誰かに不機嫌に当たったりするようになってしまうのだ。
フキハラを防ぐために
では、不機嫌な態度に困っているとき、あるいは自分の態度を振り返りたいとき、何を意識すればよいのだろうか。
まず、不機嫌な人=加害者と決めつけないことだ。一時的に不機嫌な人と継続的に無視や威圧によって、周囲を萎縮させる人を分けて考えることが必要だ。
そして相手の機嫌を取ることを、自分の責任だと思い込まないことが大切だ。相手の感情を尊重することと、相手の機嫌を常に管理することは違う。
可能であれば、落ち着いているタイミングで「不機嫌な態度が続くと、どう話しかければよいか分からず困る」と、具体的な行動と自分への影響を伝えてみる方法もある。
ただし、相手の反応に不安がある場合や、立場の差が大きい場合には、無理に直接伝える必要はない。職場なら上司や人事、相談窓口など、第三者の力を借りることも選択肢になる。
一方、自分が不機嫌になりやすいと感じる人は、感情を態度で表す前に、何に困っているのか、何を相手に求めているのかを言葉にしてみよう。
今のイライラや不満を客観的に認識することだ。「今は余裕がないので、少し時間をください」と伝えるだけでも、周囲の受け止め方は変わるはずだ。
不機嫌な感情をなくす必要はない。大切なのは、その感情をどのように表現し、周囲とコミュニケーションを取るかということだ。
誰もがいつも笑顔でいる必要はない。しかし、自分の機嫌を理由に周囲が萎縮しているとしたら、一度立ち止まって考えてみたい。怒りやイライラを感じたら「6秒待つ」、一度その場を離れて深呼吸やクールダウンするといったアンガーマネジメント実践するのもいいだろう。
職場でも家庭でも、相手の顔色ではなく言葉を通じて気持ちを伝え合うことが、フキハラを防ぐ第一歩になるのではないだろうか。
文/松尾直俊
待ち時間は3分が限界!?企業の電話窓口の仕組みが引き起こす「誘発型カスハラ」の実態
対話AIプラットフォーム「アイブリー」を提供する株式会社IVRyはモビルス株式会社、株式会社RightTouchと共同で、「全国の20代〜60代の生活者」と「全…




DIME MAGAZINE



















