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会社から支給される食事代補助の非課税枠が42年ぶりに倍増、中小企業が先行して導入している理由

2026.10.22

2026年4月1日、会社が従業員の食事代を補助しても所得税と住民税がかからない上限が、月額3,500円から7,500円に上がった。国税庁が3月31日付で所得税基本通達を改正したものだ。3,500円という額は1984年9月から適用され、42年にわたって据え置かれてきた。

改正から半年で企業は実際に動いたのか?従業員がICカードで飲食店やコンビニの支払いに利用できる食事券型食事補助サービス「チケットレストラン」を展開するエデンレッドジャパンの担当者に聞いた。

改正初月の新規契約は、前年同月の約1.7倍

会社が出す食事補助が非課税になる条件は2つある。本人が食事代の半額以上を負担すること、そして会社の負担が月7,500円以下であることだ。例えば、会社が上限の7,500円を出し、本人も同額を負担する場合、月1万5,000円を食事に使えることになる。

同社は5月12日に、改正初月にあたる4月のチケットレストランの契約動向を、速報値として公表している。新規契約数は前年同月比で約1.7倍。うち82%は従業員100名以下の中小企業で、31%は会社負担が上限の7,500円に達する満額で導入した。従業員50名以下に限ると、満額を選んだ割合は39%に上る。同社によると、新規契約の伸びは5月から8月にかけても続いている。

関心が高まった背景を、エデンレッドジャパンはこう説明する。

「物価高に加えて深刻な人手不足を受け、人材の確保や定着に向けて従業員への投資を強化する企業の動きがあります。賃上げだけでは従業員の生活支援や人材確保に対応しきれないなか、日々の食費を直接支援できる食事補助が、人的資本投資の一環として改めて注目されていると捉えています」

4月の新規契約を業種で見ると、建設業、運輸業、医療・福祉業が目立った。外回りやシフト勤務の従業員が多い業種ほど、食費支援のニーズが高い傾向があると同社は分析している。

中小企業が先に動いた理由

4月以降の新規契約全体でも、中小企業が約8割を占める。先に動けた理由を、エデンレッドジャパンはこう分析する。

「中小企業は経営層との距離が近く、制度改正を受けて短期間で導入を決められます。それが、先行して契約につながっている一因だと考えています」

もう1つの理由は設備である。チケットレストランはカード型で、社員食堂などの設備を持たない中小企業や、外回りの多い企業でも導入しやすい。5月12日の発表は、この点も4月に中小企業の導入が加速した理由に挙げている。

「一方で大企業では、予算の確保や労使協議、社内規程の改定に時間がかかります。改正から半年では、まだその途中にある企業もあります。そうした企業の契約が数字に表れてくるのは、これからになると見ています」

改正前の上限では見送っていた企業にも動きがある。引き上げで従業員への支援を手厚くできるようになったことが、再検討のきっかけになっている。

すでに導入していた企業では、3社に1社が補助額を上げた

5月12日の速報値では、改正前からチケットレストランを使っていた企業のうち、4月中に補助額を増額したのは21%で、そのうち58%が満額まで引き上げた。8月21日の発表では、改正から3か月で32.6%が増額している。

据え置いた企業が挙げる理由は、時期によるものが大半を占める。「年度途中の改正だったため、次年度の予算策定に合わせて改定を検討している」「給与体系や他の福利厚生制度との全体的な見直しの最中である」という2つの声が多い。

一方、増額した企業の背景については、こう整理する。

「採用競争力の強化や離職防止、物価高のなかでの従業員エンゲージメントの向上を最優先の課題と捉え、スピードを重視して意思決定した企業が多いのが特徴です。制度への満足度は高く、据え置いた企業からも前向きな検討の意向を伺っています」

7月に、チケットレストランを使う企業の管理者587名と利用者5,479名に行ったアンケートでは、増額していない企業の管理者の49.9%が今後の増額を予定または検討していた。

1回760円、月19.5回。増額した企業で起きたこと

改正を機に補助額を引き上げた企業では、従業員が使う回数と金額が変わった。チケットレストランの決済データでは、1回あたりの平均利用金額は587円から760円へ29.5%増え、月の平均利用回数は12回から19.5回へ62.5%増えた。営業日を月20日とすれば、ほぼ毎営業日に使われている計算になる。

1人あたり月に使える額が倍になっても、使い切るまでの日数は変わらなかった。会社と本人が3,500円ずつ出していた改正前の7,000円も、引き上げ後の1万5,000円も、平均33日、約1か月で使い切られている。

回数と金額が伸びた背景について、同社はこう答えた。

「1回の食事に使える金額が増えたことで、これまでの食事にもう一品を追加したり、普段より少し質の高いものを選んだりと、食事の選択肢が広がっています」

従業員の受け止めは、7月のアンケートに表れている。食事補助の金額に満足している人は、増額した企業で61.1%、増額していない企業で39.5%だった。会社は従業員のことを考えてくれていると感じる人の割合も、食事補助がこの会社で働き続けたい理由になっていると答えた人の割合も、増額した企業が上回った。

増額した企業の管理者は、97.8%が増額してよかったと答え、85.1%が投資対効果が良いと評価している。

給与と食事補助とでは、使い道の記憶に違いが見えた。同じアンケートで、食事補助を増額した企業の従業員では、給与の増額については53.6%が生活費に消えたと答え、使い道を具体的に思い出せる人は14.2%にとどまった。食事補助は、67.0%が食事の内容を思い出せると答えている。同社は、給与を上げるよりも食事補助の額を上げるほうが、従業員が会社に感謝の気持ちを持ちやすいとみている。

半額負担の決まりを毎月の集計なしで満たす仕組み

非課税の条件の1つに、本人が半額以上を負担するという決まりがある。導入を検討する企業からの質問は、ここに集中する。「社員がいくら使ったかを会社側で毎月集計・計算する必要があるのか」「半額負担の計算ミスによって、後から課税対象にならないか」の2つが多い。こうした質問に対する答えは明快だった。

「チケットレストランは、企業側での煩雑な集計や計算を前提としない設計にしています。非課税の要件に沿って企業負担分と従業員負担分を設定し、プリペイドカードに企業が一定額をチャージする仕組みなので、従業員一人ひとりの利用額を毎月集計したり、その都度負担額を計算して精算したりする必要がありません。従業員の側も、立替や申請といった手続きなしに日々の食事に使えます」

食事補助を広く普及させるには、企業にとって運用しやすく、従業員にとってわかりやすく、無理なく使い続けられる単純な仕組みであることが欠かせないと、同社は考えている。

社員食堂を持つ企業が挙げる弱点は、コストと不公平感

オフィスに食品を置いて販売する置き型のサービスを使う企業や、社員食堂を持つ企業が相談を寄せる理由と、社員食堂と決済型の今後の住み分けを、エデンレッドジャパンはこう読み解く。

「社員食堂の運営コスト増に加え、出社する従業員と、リモートワークや外勤の従業員との間の利用率の不公平感を理由に、決済型へ置き換える、あるいは併用したいというご相談は非常に増えています。今後は、社員食堂や置き型サービスがオフィス内の拠点に限ったサポートを担い、決済型は勤務地や働き方を問わず全従業員に均等に還元できる汎用インフラとしての役割を強めると見ています」

もっとも、同社の推計では、国内で食事補助を受けている人は就業者の14%程度にとどまる。諸外国では50〜70%に達し、非課税の上限も月額2万5,000円から3万円にのぼる。

普及に向けて、同社は2026年9月10日、Gigi、ネオマルスの2社と一般社団法人食事補助推進協会を設立した。会長は同社代表取締役社長の天野総太郎氏が務める。協会は国内の普及率50%を目標に、認知向上、教育、政策提言の3本柱で活動する。所得税が非課税となる食事券サービスのガイドラインを3社で策定し、企業と従業員、飲食店が制度を正しく安心して使える環境を整えるとしている。

改正から半年で、企業は動いた。先に動いたのは、経営層の判断が速い中小企業である。すでに導入していた企業も3社に1社が補助額を上げ、据え置いた企業の半数は次の予算で増額を検討している。社員食堂を持つ大企業向けと見られてきた食事補助を、この半年で先に使い始めたのは、設備を持たない中小企業だった。

取材・文/宮﨑駿

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