■連載/ヒット商品開発秘話
仕事や勉強、トレーニングなど一定の時間集中して何かに取り組んでいると、残り時間が気になってくる。そんな時に便利なアイテムとして人気を博しているが、キングジムの『ビジュアルバータイマー』シリーズである。
2024年4月に発売された『ビジュアルバータイマー』シリーズは、計測時間の進行状況を横方向の目盛りで表示。経過時間に応じて目盛りが消えていくので、表示されている目盛りの数でおおよその残り時間を把握することができる。タイマーの針や数字を読む必要がないので、大人だけではなくアナログ時計が読めない子どもでも使いやすい。現在4種がラインアップされており、これまでの販売数がシリーズ累計で5万個を突破している。
プログレスバーにヒントを得た横置きのアイデア
最初に開発されたのは、スタンダードタイプの『ビジュアルバータイマー』。開発のヒントは、最初に企画した担当者が自宅でトレーニングをしていた際に得た気づきにあった。
「動画を見ながらトレーニングをしていたところ、残り時間が表示されたのを見てモチベーションが継続でき頑張ることができることができました」
このように明かすのは、現在の担当である開発本部デジタルプロダクツ開発部デジタルプロダクツ課 リーダーの西田基悟氏。発案者は、発売の1年ほど前に企画を上申したという。
残り時間を目盛りや色で示すビジュアルタイマーは、すでに市場にあふれていた。その多くは時計のように円形で、時間の経過とともに目盛りや色が減っていくタイプ。しかし、設定できる時間が短いこと、ごく短い時間を計測する時は時間経過がわかりづらいことなどから、形状を横置きのバータイプとすることにした。
横置きのバータイプは、ネット上で動画を再生する時に表れるプログレスバー(処理や作業の進捗状況を視覚的に示す棒状のメーター)がヒントになった。目盛りを横に表示させることには、何分計測するのであっても計測開始からどれだけ時間が経過したのかが、目盛りの減った数でつかみやすいという利点があった。
可能な計測は、時間のカウントダウンとカウントアップができる「通常計測モード」、作業時間と休憩時間のカウントダウンを指定した回数に応じて交互に繰り返す「リピート計測モード」の2通り。「リピート計測モード」は大人が仕事や勉強で活用することを意識して盛り込んだもので、「ポモドーロ・テクニック」(25分間の作業と5分間の休憩を繰り返すことで集中力を保ち生産性を高める時間管理手法)に活用できる。最終的には採用されなかったが、企画上申時には「リピート計測モード」に設定するリピートボタンが設けられていた。
『ビジュアルバータイマー』は開発に高度な技術を必要とする商品ではない。その代わり、従来なかったタイプの商品のため、企画担当者のこだわりを最大限詰め込んだ。
とくにこだわったのがデザイン。数字を見なくても時間の経過がひと目でわかり、年齢を問わず幅広く使ってもらえるものを目指した。商品全体だけではなく細部にもこだわり、設計データの検討・調整を繰り返した。
「デザインの原案は、キッチンタイマーのように正面に液晶画面とボタンを配置したものでした」と明かす西田氏。検討を進めていくうちに残り時間を直感的に把握できるよう正面は液晶画面のみとし、ボタン類は上面や側面に配置した。目盛りを表示する液晶のサイズは、並べて配置する時間表示用の液晶とのバランスを考慮して決めた。
目盛りは20個。計測開始時はすべて表示されるため、1目盛り当たりの時間は計測時間によって変わる。目盛りの大きさや数によっては計測時間が短いと直感的に残り時間がわかりづらくなることから、社員にヒアリングしたりデザイナーと協議したりしながら目盛りの数や1目盛り当たりの大きさを決めていった。
目盛りが減っていく様子をSNSで見せる
『ビジュアルバータイマー』の売れ行きは、想定以上に初動が良かったという。このため、需要に対して供給が追いつかない状況が一時的に発生した。西田氏は「発売から半年で初年度目標の2倍を達成し、最終的に初年度は目標の4倍近くにまで達しました」と話す。
想定以上の初動の良さから「これはバズるかもしれない」と同社は判断。当初から予定していたSNSでの情報発信をさらに強化することにした。
SNSではとくに、目盛りが減っていく様子をXやInstagram、YouTubeで見せ、商品特性の理解を促した。同社からの発信だけではなく多くのユーザーも目盛りが減っていく様子をSNSに投稿し、商品の認知が高まっていった。
売れ行きが好調に推移していくと、ユーザーや購入を検討している人などから商品に対する要望の声が集まるようになってくる。企画時点ではシリーズ化は強く意識していなかったが、同社はユーザーなどから得られた声などを元にして『ビジュアルバータイマー』をシリーズ化することに舵を切った。
ユーザーの声を生かしてシリーズ化を推進
シリーズ第2弾は2025年9月に発売された『ビジュアルバータイマー 大型』(以下、大型)。ユーザーへのヒアリングから「会議やセミナーなど大勢の人が集まる場で使いたい」といった要望があったことを受けて企画された。個人ユーザーではなく企業や学校など法人ユーザーを開拓するためのモデルになる。
大型はサイズだけではなく計測時間も拡大。時計として利用できる「時計モード」も搭載した。ボタン類はすべて側面に配置。電源はアルカリ乾電池(単3×3本)のほかACアダプター(別売)にも対応している。
シリーズ第3弾は2026年6月に発売された『ビジュアルバータイマー プラス』(以下、プラス)。ECサイトから購入したユーザーや販売店などから「もっと見やすいものがほしい」「進行状況がよりわかりやすいとありがたい」といった声を受けて開発した。個人ユーザー向けモデルの最上位に当たる。
最大の特徴は、目盛りの色を4つに分け光量を3段階で調整できるバックライトを搭載したところ。モノクロ液晶は視野角から外れると見えにくくなるが、バックライトと目盛りのカラー表示により、どこからでも見やすくなった。
プラスは他のモデルにはない設定用のダイヤルを搭載。『ビジュアルバータイマー』では2つあったリセットボタンも1つにした。これにより、設定が簡単かつ素早くできるようになった。電池交換の手間軽減や高機能化に伴う消費電力の増加により、電源にはリチウムイオン電池を採用した。
当初は『ビジュアルバータイマー』の売れ行きが下がり、結果的にシリーズ全体の売れ行きが落ちることが懸念されたことから、プラスの商品化には慎重だった。ただ、高機能な上位モデルであり価格もアップすることから、「ターゲットユーザーの年齢層を『ビジュアルバータイマー』より上げました」と西田氏は話す。
そしてシリーズ第4弾が、2026年9月に発売されたばかりの『ビジュアルバータイマー プチ』(以下、プチ)。ガジェット好きや時間管理にこだわりのある人というよりは、勉強時に使いたい学生のようなライトユーザー向けのものとして企画された。持ち歩きやすいよう小型にすること、手に取りやすい価格にすることにこだわって開発した。
他のモデル同様、「通常計測モード」と「リピート計測モード」を搭載しているが、小型化に伴い目盛りの数は他のモデルより少ない10個。図書館など静かな環境での利用を考慮してLEDの点滅で消音時に計測が終了したことを知らせる機能を追加した。プラスで1つになったリセットボタンは、『ビジュアルバータイマー』と同じ2つにしている。
プチは背面が斜めになっているデザインが特徴。斜めにしたのは、これまでのモデルにあった背面のマグネットを省略したためであった。西田氏は次のように話す。
「これまで発売してきたモデルには背面にマグネットを付けていたので、目線と同じ高さに固定できれば見やすくなりますが、プチでは手に取りやすい価格にするため、マグネットは省略しました。このため使用は卓上に限られるのですが、卓上で見やすくするため背面に傾斜をつけ、液晶画面が少し持ち上がる置き方ができるようにしました」
また、プチは他のモデルと異なり本体のカラーバリエーションを変えた。他のモデルは大人にも使ってもらえるよう落ち着いた白と黒の2色で展開してきたが(大型は白のみ)、学生を意識してレモンイエロー、ミントグリーン、マリンブルー、アイスホワイトの4色で展開することにした。
取材からわかった『ビジュアルバータイマー』シリーズのヒット要因3
1. 対象ユーザーの年齢層が広い
低年齢層の利用を意識したデザインやカラーを採用したビジュアルタイマーが多いが、大人でも使いやすいようシンプルなデザインと落ち着いたカラーリングを採用。大人から学生まで幅広い年代を対象ユーザーにできた。
2.視覚に訴える動き
横置きするバータイプはビジュアルタイマーとしては珍しい上に、正面は液晶ディスプレーのみとシンプル。液晶ディスプレーに表示される目盛りが時間の経過とともに1つずつ減っていく様は、残り時間が感覚的に把握しやすいと同時にユーザーの視覚に訴える要素も兼ね備えていた。
3. 低コストで必要な機能を実現
新規概念の商品なので強気の価格設定にすることもできたが、市場には競合品があふれている。手に取ってもらうには価格は無視できない。高度な技術や高価なパーツを使うことなくアイデアを形にして、価格を抑えた。
『ビジュアルバータイマー』シリーズは、ユーザーの要望や不満などを踏まえてシリーズ化を進めた。最初のモデルが想定以上に売れたからこそできたシリーズ化であり、シリーズ化することでユーザー層と売れ行きの両方を拡大した。ヒットの好循環をつくることができたといってもいいだろう。
製品情報
https://www.kingjim.co.jp/sp/visual-bar-timer/
取材・文/大沢裕司
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