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地方のお産を救え!都市部の利益を支える地方の産婦人科の存在と役割

2026.10.12

少子化が進み、全国で分娩施設の閉院や分娩取り扱いの中止が相次いでいます。特に地方では、出生数の減少だけでなく、後継者不足や経営負担の大きさから、地域のお産を支えてきた個人産院が存続できなくなるケースが増えています。一方、経営の合理性だけを考えれば、出生数が多く、収益を確保しやすい都市部に施設を展開する方が有利です。それでも地方のお産を守るには、どうすればいいのでしょうか。

私たちファミール産院グループが考えているのは、一つひとつの地方産院だけで採算を完結させるのではなく、都市部と地方を含めたグループ全体で経営を成立させるという考え方です。今回は、採算性の厳しい地域のお産を持続させるために、私たちが実践している産婦人科経営についてお話しします。

地方産院を苦しめているのは「医療」だけではない

地方で分娩施設が減っている理由として、まず挙げられるのが後継者不足です。長年地域のお産を支えてきた院長が高齢になり、「後を継いでくれる医師がいない」というケースは珍しくありません。加えて、出生数そのものが減少しているため、将来の市場に魅力を感じにくくなっていることも背景にあるでしょう。

ただ、私自身が産院を経営してきた経験から感じるのは、もう一つ大きな問題があります。それは、医師が「医療以外の仕事」まで抱えすぎていることです。地方の個人産院では、院長が診療や分娩を担うだけでなく、人事、労務、経理、採用、マーケティングなど、経営に関する仕事まで担っているケースが少なくありません。医師は本来、医療が好きだから医師になっています。診察や分娩に向き合うこと自体よりも、その周辺にあるマネジメント業務の方が大きな負担になってしまうこともあるのです。

私自身も創業当初は、多くの仕事を一人で抱えていました。しかし、施設が3~4院ほどに増えた頃、このまま私一人ですべてを管理する方法では限界が来ると感じるようになりました。そこで、経営や管理の仕事を専門の人材に任せ、それぞれの機能を切り分けていったのです。現在は、財務、労務、採用、広報、マーケティングなどを専門部門が担い、現場の医師や助産師が可能な限り医療に集中できる体制を整えています。地方産院を残すために必要なのは、「医師にもっと頑張ってもらうこと」ではありません。医師が医師の仕事に集中できる経営の仕組みをつくることだと私は考えています。

都市部で得た利益を地方へ還元する

地方産院の経営には、どうしても限界があります。出生数が少ない地域では、どれだけ努力しても得られる利益には上限があり、実際、グループの中でも地方では十分な利益を確保することが難しい施設があります。通常の企業経営だけを考えれば、採算の悪い事業から撤退し、収益性の高い地域に経営資源を集中させる方が合理的でしょう。産婦人科経営でも同じです。「魚のいるところに網を投げる」という言い方がありますが、出生数が多い都市部に施設を出した方が、事業としては成立させやすいのです。

しかし、私たちの原点は地方です。2005年、私は千葉県館山市という人口が決して多くない都市で産院を開業し、地域に根差して事業を成長させてきました。その経験があるからこそ、地方の産院を「儲からないから撤退する」という考え方だけでは割り切れません。そこで私たちが取っているのが、都市部と地方を組み合わせた経営です。収益を確保しやすい地域ではしっかりと利益を生み、その利益をグループ全体の中で地方にも還元する。一つの産院だけで黒字か赤字かを見るのではなく、グループ全体でお産を支える仕組みをつくるわけです。

地方の産院自身も、もちろん収益改善の努力をします。しかし、一定以上の努力をしても解決できない地域特性もあります。そこをグループ全体で補完することによって、単独経営では維持が難しい地域にもお産の場を残すことができる。これが、私たちが考える「都市部の利益で地方を支える」という経営です。

規模のメリットは「安く仕入れること」ではない

複数の施設を経営していると言うと、「医療材料や備品を一括購入してコストを下げているのですか」と聞かれることがあります。もちろん無駄なコストは使いませんが、私たちは一括仕入れによる数十円、数百円の削減をそれほど重視しているわけではありません。それよりも大きいのが、「一人に責任を集中させないこと」です。産婦人科医療では、どれだけ真剣に診療していても、難しい事例に直面することがあります。個人経営の場合、その責任や精神的な負担が院長一人に集中してしまいがちです。

一方、グループであれば、何か問題が起きたときにも、本部や専門家を含めて組織として対応できます。特定の医師一人にすべてを背負わせない。私は、こうした「心理的な安全性」も、グループ経営だからこそ得られる重要なスケールメリットだと考えています。

もう一つ大きいのが、施設同士が刺激し合えることです。私たちは各施設の情報を共有し、定期的に院長たちが集まります。他の施設がどのような取り組みを行っているのか、どのくらい成果を上げているのかが見えることで、「自分たちももっと良い産院にしよう」という競争意識が自然に生まれます。単純なコスト削減ではなく、組織全体の力を高めていく。これも複数施設を持つ大きな意味です。

まず既存施設を強くする。だから次の挑戦ができる

私たちのグループ経営には、大きく3つの柱があります。

一つ目は「既存施設を繁栄させること」です。それぞれの地域で患者さんから選ばれ、安定した経営を続けられる産院をつくる。これは何より重要なコア事業です。二つ目は「新しい事業を生み出すこと」です。産婦人科医療そのものだけでなく、これまで培ってきた経営やマーケティングのノウハウを生かした新規事業にも取り組んでいます。そして三つ目が「エリアの拡大」です。

私は「年間1万件の分娩」を一つの目標として掲げていますが、規模を大きくすること自体が目的ではありません。重要なのは、一つ目の柱である既存施設がしっかり経営できているからこそ、そこで生まれた力を新しい施設や事業へ投資できるということです。既存事業を強くし、その利益を次の挑戦に回す。その新しい施設が軌道に乗れば、また次の地域を支える力になります。この循環をつくることで、単独の産院では難しいことが、グループとして可能になります。

「拡大すること」が地方のお産を守る力になる

一般的には、企業が店舗や拠点を増やすことは「成長戦略」と捉えられます。もちろん私たちにとっても成長は大切です。しかし、産婦人科の場合、施設を増やすことにはもう一つの意味があります。経営に行き詰まり、お産をやめざるを得なくなった産院をグループとして支えることができれば、そこで働いていた医師やスタッフの雇用も守ることができます。そして何より、その地域から「お産ができる場所」がなくなることを防げる可能性があります。だから私にとって、規模の拡大は単なる売上拡大ではなく、地方のお産を残すための「経営基盤を大きくすること」でもあるのです。

少子化が進むこれからの日本で、一つひとつの産院が単独で生き残ることは、ますます難しくなるかもしれません。だからこそ、「一施設だけでどう利益を出すか」という発想から、「複数の施設や機能を組み合わせ、全体として医療インフラをどう維持するか」という発想への転換が必要だと思っています。

都市部で利益を生み、その力を地方へ還元する。経営や管理を専門部門が担い、医療者は医療に集中する。そして、既存施設を強くすることで、新しい地域へ再び投資していく。こうした循環をつくることができれば、少子化が進む日本でも、地域のお産を守る選択肢はまだ残されていると私は考えています。

文/杉本雅樹
すぎもと・まさき。医療法人社団マザー・キー理事長。ファミール産院グループ代表。筑波大学医学群卒業後、筑波大学附属病院などを経て、2005年に千葉県館山市でファミール産院を開院。以降、産婦人科を中心に事業を拡大し、現在は分娩施設12施設を含む全14施設を展開している。グループ全体の従業員数は約700名。著書に『体のベースを整えるプラセンタ療法 再生能力を上げる方法』『ママ0歳から読むしあわせ出産バイブル』『日本一幸せなお産をしよう』がある。

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